
4M変更とは
医療機器の製造工程における4M変更とは
はじめに
医療機器産業において、製品の品質と安全性を確保することは最も重要な課題である。製造工程における変更は、最終製品の品質や性能に直接影響を与える可能性があるため、厳格な管理が求められる。その中でも「4M変更」という概念は、製造工程の変更管理において中核となる考え方である。
医療機器規制では一般的に「設計変更」という用語が使用されているが、実質的には「製造変更」を指すことが多い。つまり、設計を変更する目的は、多くの場合、製造方法を変更するためである。本稿では、この点を踏まえながら、医療機器の製造工程における4M変更について解説する。
4M変更とは何か
医療機器規制における4M変更とは、製造工程における以下の4つの要素の変更を意味する。
- Machine(機械): 製造設備や検査機器などの変更
- Material(材料): 原材料や部品、副資材などの変更
- Method(方法): 製造方法や手順などの変更
- Measurement(測定): 検査方法、判定基準、測定機器などの変更
これは一般製造業で言及される4M(Man、Machine、Material、Method)とは異なる点に注意が必要である。医療機器規制においては、人的要素(Man)の変更は規制対象から除外され、代わりに測定(Measurement)の要素が重視されている。
これらの要素は製造工程の基本的な構成要素であり、いずれかに変更が生じた場合、製品の品質や性能に影響を及ぼす可能性がある。そのため、4M変更が発生した際には適切な評価と管理が必要となる。なお、作業者などの人的要素(Man)の変更は、医療機器規制上は直接の規制対象となっていないが、GMP(Good Manufacturing Practice)の観点からは適切な教育訓練や力量評価を行うことが求められる。
設計変更と製造変更の関係性
医療機器規制においては、変更管理の文脈で「設計変更」という用語が用いられることが多いが、これは興味深い点である。規制上の「設計変更」の多くは、実際には製造プロセスに関する変更、すなわち「製造変更」を意図している。
設計変更が行われる主な目的は、製造方法を変更するためである場合が多い。例えば、製品の材料を変更する場合、技術的には設計仕様の変更となるが、その目的は製造プロセスの最適化やコスト削減などの製造上の理由であることが少なくない。
重要な点として、医療機器規制では、人的要素(Man)の変更を除き、機械(Machine)、材料(Material)、方法(Method)、測定(Measurement)の変更は、設計部門が指示しなければならないとされている。つまり、これらの4M変更の申請は、通常、製造部門から設計部門に提出され、設計部門でレビューと承認が行われた後、デザインレビューを経て、製造所において実装(インプリメント)される流れとなる。
このように、医療機器業界では設計と製造が密接に関連しており、4M変更管理はこの両者を包含する概念として捉えることが重要である。規制当局への申請や届出においても、設計変更として扱われる内容の多くが、4Mの観点では製造変更に該当することを理解しておく必要がある。
4M変更管理の法的基盤と規制要件
医療機器の4M変更管理は、単なる企業の自主的な取り組みではなく、各国の規制当局による厳格な要求事項に基づいている。
FDA QSRの要求事項
米国食品医薬品局(FDA)の品質システム規制(21 CFR Part 820)では、設計変更(820.30(i))と製造工程変更(820.70(b))の双方を管理対象としている。特に820.40(b)では文書変更の管理プロセスを明確に規定し、原承認者による再承認を義務付けている。
ISO 13485:2016の要件
国際標準化機構(ISO)の医療機器品質マネジメントシステム規格である ISO 13485:2016 では、7.3.9項で設計変更の管理を次の要素で規定している。
- 変更の識別と文書化
- リスク再評価
- 検証/バリデーションの実施
- 承認プロセスの遵守
日本国内規制の整備状況
医療機器の製造販売業者等の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(QMS省令)第36条では設計変更管理を、第55条の3では重大変更の報告義務を規定している。医薬品医療機器総合機構(PMDA)のガイドラインにおいても4M要素の変更を「設計変更」として扱うことが明記されている。
4M変更管理の組織体制
医療機器の製造における4M変更管理には、適切な組織体制が必要不可欠である。特に設計部門と製造部門の関係性は重要である。
設計部門と製造部門の役割
医療機器規制においては、4M変更(Man以外)の管理は以下のような流れで行われる。
- 変更の発案: 多くの場合、製造部門が製造プロセスの改善や効率化を目的として変更を提案する
- 変更申請の提出: 製造部門は設計部門に対して変更申請を提出する
- 設計部門によるレビュー: 設計部門は提案された変更が製品の設計仕様や品質に与える影響を評価する
- デザインレビュー: 提案された変更は正式なデザインレビュープロセスを通じて評価される
- 変更の承認: 変更が承認された場合、設計部門は変更指示書を発行する
- 変更の実装: 製造部門は設計部門からの指示に基づいて変更を実装する
- 変更後の検証: 設計部門と品質保証部門が協力して変更後の検証を行う
この体制により、製造プロセスに関する変更であっても、設計管理の枠組みの中で適切に管理されることが保証される。
設計部門の主な責務
- 変更影響評価(FMEA:故障モード影響解析の実施)
- 検証計画策定(バリデーション要件適合性確認)
- 規制対応判断(FDA 510(k)要否判定など)
製造部門の主な責務
- 変更実装計画作成
- 作業者訓練実施
- 一時的工程管理(統計的プロセス制御の実施)
文書化とトレーサビリティ
4M変更管理において、文書化とトレーサビリティの確保は非常に重要である。主な文書としては以下が挙げられる:
- 変更申請書:製造部門から設計部門への申請書
- 設計変更通知書:設計部門から製造部門への指示書
- デザインレビュー記録:変更の評価に関する記録
- 設計履歴ファイル(DHF):設計変更に関する記録
- 製造履歴ファイル(DMR):製造プロセスの変更に関する記録
これらの文書を適切に管理することで、変更の理由、評価、承認、実装までの一連のプロセスを追跡可能にする。
4M変更管理のプロセス
医療機器の製造における4M変更管理は、一般的に以下のようなプロセスで行われる。このプロセスは、規制上の「設計変更」の枠組みの中で運用されることが多い点に留意が必要である。
1. 変更の申請・提案
通常、製造部門が変更の必要性を認識し、設計部門に対して変更申請を行う。この段階で変更の目的、範囲、想定される影響などを文書化する。多くの場合、製造プロセスの改善を目的とした変更であっても、設計変更申請として処理される。
2. 変更の評価
設計部門は、変更が製品の品質、安全性、有効性に与える影響を評価する。具体的には以下の観点から評価を行う。
- リスク分析
- バリデーションの必要性判断
- 規制要件への影響
- 顧客への影響
- 設計および製造への影響の区別
3. デザインレビューと変更の承認
評価結果に基づき、正式なデザインレビュープロセスを経て変更実施の可否を決定する。承認された場合、設計部門は製造部門に対して変更指示書を発行する。また、品質保証部門や規制当局への届出の要否も判断する。
4. 変更の実施
製造部門は、設計部門からの変更指示に従って実際に変更を実施する。この際、必要に応じて以下のような活動も行う。
- 工程バリデーション
- 設備の適格性確認(IQ/OQ/PQ)
- 作業者のトレーニング
5. 変更後の検証
設計部門と品質保証部門が協力して、変更後の製品や工程が要求事項を満たしていることを確認する。具体的には以下のような検証を行う。
- 製品検査
- プロセスパラメータの監視
- 安定性試験
6. 変更の文書化と記録
変更の内容、評価結果、実施状況、検証結果などを適切に文書化し記録する。設計履歴ファイル(DHF)には設計変更の詳細が、製造履歴ファイル(DMR)には製造プロセスの変更に関する詳細が記録される。これらの記録は将来の監査や問題発生時の調査のために重要である。
まとめ
医療機器製造における4M変更管理は、FDA QSRとISO 13485を基盤とした厳格なプロセス体制に基づいている。機械(Machine)、材料(Material)、方法(Method)、測定(Measurement)のいずれかに変更が生じた場合、その影響を適切に評価し、必要な対策を講じることが求められる。
医療機器規制においては、これらの変更が「設計変更」として扱われることが多いが、実質的には製造プロセスの変更を目的としていることを理解することが重要である。そして、4M変更(Man以外)は設計部門が主導して管理する必要があり、製造部門から設計部門への変更申請、設計部門によるレビューとデザインレビュー、そして設計部門から製造部門への変更指示という流れで実施される。
この設計部門と製造部門の連携体制により、製造プロセスの変更であっても設計管理の枠組みの中で適切に管理され、製品の品質と安全性が保証される仕組みとなっている。設計変更と製造変更は区別されるものではなく、相互に関連した概念として捉えるべきである。
業界調査によれば、適切な変更管理を実施している企業の製品不適合率が0.05%以下に抑制されているとの報告もある。今後の課題はAI/ML技術を活用したプロセス最適化と、国際規制の調和に向けた標準化推進である。
なお、人的要素(Man)は医療機器規制上の直接の4M変更対象ではないものの、デジタル資格認証システムの導入など、間接的な品質保証手段の進化が期待される。適切な教育訓練と力量評価を通じて、製造品質への影響を最小化する取り組みが求められることを忘れてはならない。
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