形成的評価と総括的評価
形成的評価と総括的評価
医療機器のユーザビリティエンジニアリングとは、製品の使いやすさと安全性を確保するための体系的なプロセスである。このプロセスの中で特に重要な役割を果たすのが、形成的評価と総括的評価である。形成的評価は開発途中での改善を、総括的評価は最終的な検証を担当する、相互に補完的な評価手法である。これらの評価方法を理解することは、より安全で使いやすい医療機器を開発する上で不可欠である。
形成的評価の起源と本質
形成的評価という考え方は、教育の現場から生まれたものである。アメリカの教育心理学者B.S.ブルームが、生徒一人一人の学習達成度を高めるための「完全習得学習」という理論の中で提唱したものである。
この概念を理解するために、学校での定期テストを例に考えてみることができる。期末テストだけで学習の理解度を確認する従来型の評価方法では、理解が不十分だと分かった時には、すでに次の単元に進んでしまっていることが多く、効果的な改善が難しい状況に陥ってしまう。これに対して、毎朝小テストを実施して理解度を確認する形成的評価では、生徒の理解度をリアルタイムで把握でき、必要に応じて直ちに補習を行ったり、教え方を工夫したりすることが可能である。
医療機器開発への応用
この教育現場での考え方は、医療機器の開発プロセスにも活かされている。医療機器の開発において、形成的評価とは、製品が完成する前の段階で行う継続的な評価と改善のプロセスを指す。例えば、新しい医療機器のプロトタイプを作成した段階で、実際の使用者である医療従事者に試用してもらい、使い勝手や改善点についての意見を聴取する。その意見を基に設計を改善し、再度評価を行うというサイクルを繰り返すことで、より安全で使いやすい製品へと進化させていくのである。
このプロセスは、料理人がスープを作りながら味見をして調整を重ねていくようなものである。最後まで味見をせずに作ってしまうと、塩加減が強すぎたり、出汁が足りなかったりする事態を招きかねない。医療機器の場合、完成後に重大な使用上の問題が見つかれば、患者の安全に関わる深刻な事態につながる可能性があるのである。
なお、形成的評価は、ISO 13485における設計検証に相当する。
総括的評価の役割
一方、総括的評価は、開発が完了した最終製品に対して行う評価である。これは、期末テストのように、設定された全ての要求事項が確実に満たされているかを確認する重要な過程である。例えば、安全性に関する規制要件を満たしているか、期待される性能が確実に発揮されるか、想定されるユーザーが安全に使用できるかなどを、客観的なデータを基に検証する。
なお、総括的評価は、ISO 13485における設計バリデーションに相当する。
両者の関係性
形成的評価と総括的評価は、互いに補完し合う関係にある。形成的評価によって開発過程での問題を早期に発見し改善することで、最終的な総括的評価での合格率を高めることができる。また、総括的評価で見つかった課題は、次世代の製品開発における形成的評価の観点として活用されるのである。
これからのユーザビリティエンジニアリングに向けて
近年、医療機器の高度化・複雑化が進む中で、ユーザビリティエンジニアリングにおける形成的評価の重要性はますます高まっている。開発の早い段階から使用者の視点を取り入れ、継続的な改善を行うことで、より安全で効果的な医療機器を効率的に開発することができる。この「作りながら評価し、評価しながら作る」というアプローチは、人間中心設計の考え方に基づくユーザビリティエンジニアリングの核心であり、これからの医療機器開発において不可欠な考え方となっているのである。
医療機器のユーザビリティエンジニアリングでは、形成的評価と総括的評価を適切に組み合わせることで、使用者のニーズに応え、かつ安全性要件を満たす製品を効率的に開発することができる。この評価プロセスは、より良い医療環境の実現に向けた重要な取り組みとして、今後さらに発展していくことが期待されている。