生データの修正方法の理由
手書き記録の修正方法に関する規定は、データインテグリティの確保とトレーサビリティ(追跡可能性)の維持を目的としており、品質管理システムの重要な要素である。
修正履歴が不明確であったり、元のデータが消去された場合、意図的または偶発的な改ざんがあったかどうかを判断することが困難となる。そのため、元の記録を残しながら修正を行うことが義務付けられている。
具体例
- 数値の修正:「23」を「25」に修正する場合、「23」に一本線を引き、上部に「25」と記入する
- 日付と署名:修正箇所の近くに修正日付と修正者のイニシャルを記入する
1. データインテグリティの確保
このように手書きの記録を修正する際には、一本線で取り消し修正者の署名・日付の記入が求められる。
ではなぜそのような面倒な手続きが求められるのであろうか。変更が正しければ、上書きすればいいではないか。
それは変更が間違いであることがあるためである。
確認者や承認者、出荷判定者などは、記録の訂正箇所に注目しなければならない。
そして、なぜ記録の修正に至ったのか、その背景を推察することも重要である。
例えば、SOPを正しく理解していなかったのではないか、不慣れ・不向きな作業ではなかったか、忙しかったり、疲れた体調で業務を行っていたのではないかなどである。
それらの背景に潜む原因を取り除かなければ、再発を招き、データインテグリティの確保は難しくなる。
筆者が監査員の教育を受けた際には「変更箇所に着目」するように教わった。その背景には、データインテグリティを脅かす何らかの事情があったに違いないためである。
また、記録の訂正が1ページ当たり5か所以上にも及ぶ場合がしばしば見受けられる。その際には、筆者は「これだけ修正があるということは、まだほかにもあるのではないか。本当にこれだけだと言えるのか。」と追及することがある。
本来、記録の修正が繰り返されたり、同じページに多くの修正が存在してはならない。それはもはや記録全体の信頼性がないということになるためだ。
さらに理由に「誤記訂正」と記載している例が多い。しかし、誤記訂正では、なぜ誤記と言えるのかが不明である。筆者は「本当に誤記なのか」を常に質問するようにしている。修正に至った本当の理由を適切に記載することが重要である。
2. トレーサビリティの維持
手書きの修正方法では、修正前と修正後の情報を明確に記録し、修正の過程を適切に追跡できるようにすることが求められる。このトレーサビリティは、規制当局の査察において特に重要視される。
修正記録に含まれるべき要素
- 修正を行った日時
- 修正者の識別情報(署名やイニシャル)
- 修正の理由(必要に応じて参照文書番号も記載)
これらの情報が適切に記録されることで、修正の正当性が示され、必要に応じて再検証が可能な状態が保たれる。
3. ヒューマンエラーの管理と透明性の確保
手書きの記録では、人為的なミスは避けられない。しかし、重要なのはそのエラーへの対応が適切に記録され、透明性が確保されることである。
透明性確保の具体的な方法
- エラーの性質を明確に記載する
- 修正に至った経緯を文書化する
- 必要に応じて品質保証部門による確認を実施する
これらの手順により、ヒューマンエラーが適切に管理され、その対応が監査可能な状態で維持される。
まとめ
手書き記録の修正方法に関する規定は、単なる手順にとどまらず、品質保証システム全体の重要な要素として機能する。適切な修正手順の遵守により、データの信頼性が確保され、規制要件への適合が実現される。