state of the artとは
state of the artとは
“state of the art”とは「最新技術の、最も進んだ」という意味である。
ISO 14971:2019 「医療機器-リスクマネジメントの医療機器への適用」には、以下の用語の定義がある。
3.28 最新の技術水準(state of the art)
ある時点での、科学、技術及び経験を結集した知見に基づいた、製品、プロセス及びサービスに関する技術力の到達段階
つまり、最新の技術水準(state of the art)は、技術及び医学の優れた実践として現在一般に受け入れられているものを具体化したものである。
医療機器を設計開発する際は、最新の技術水準(state of the art)に基づかなければならない。
規制当局の期待は、常に最新の情報を取り入れて品質システムを向上させ、製品の設計・製造工程・リスク分析等を見直すことなのである。
つまり“state of the art”には、下記のような知見が含まれる。
- 最新の規制要件
- 最新の国際規格(ISO、IECなど)
- 最新の安全性情報(有害事象、事故報告など)
- 最新の他社情報(回収報告など)
- 最新の治療方法(他の治療法など)
- 最新のテクノロジー(構造設備、分析機器など)
安全性情報の収集
新規に医療機器を開発する場合、その多くは、先行機種や類似機種を参考にするだろう。
本邦においては、安全性情報はGVP省令に基づき、安全情報管理部門によって収集されている。
改良医療機器を開発する場合、基本的に、先行機種や類似機種における不具合などの安全性情報を取り込む必要がある。
改良医療機器の申請においては、比較する先行機種と有効性・安全性が同等であることを証明しなければならないためである。
ここで間違ってはならないことは、先行機種の申請時点でのリスクマネジメントの結果ではない。市場に出荷された後の、市場からのフィードバック情報を受けて更新された、リスクマネジメントでなければならないのである。
当然のことながら、先行機種においても、ライフサイクルを通して、リスクマネジメントが実施されている。
申請資料において、先行機種と安全性が同等であると謳うためには、最新の安全性情報を取り入れる必要がある訳だ。
技術的に最も進んだ解決策ではない
ただし、最新の技術水準は、必ずしも技術的に最も進んだ解決策を意味しない。
最新の技術水準は “一般に認められた最新の技術水準”である。例えば、大学などのアカデミアで研究されている最先端技術のことではない。
ベネフィット/リスク比の再評価
設計開発段階において、受容可能ではない残留リスクが存在する場合、ベネフィット/リスク評価を実施することになる。
その際に、ベネフィットがリスクを上回れば、当該リスクが受容可能でない場合においても上市することができることがある。
しかしながら、医療機器が上市された後、ベネフィット/リスク比が悪化することがある。
なぜならば、リスクは増大する一方であり、ベネフィットは低下する一方であるからだ。
リスクが増大する原因としては、設計開発段階では予見できなかった新たなハザードが露見することがあるためだ。
またベネフィットが低下する原因は、より性能の良い医療機器が開発されたり、医薬品で治療が可能になるなど新規治療方法が発明されたり、新たなテクノロジーが開発されることなどによる。
このように、設計開発段階では良しとされたベネフィット/リスク比であっても、上市後にはその値が悪化し、もはや受け入れられなくなっている可能性もある。
したがって、上市後のベネフィット/リスク比を再評価するためにも、state of the artの収集が要求される訳である。
上市後のリスクマネジメント
企業は、開発が完了し製造段階に入ると、根本から設計(工程設計)・製造・リスク分析等を見直すようなことはほとんどない。
しかしながら、もっと良い方法、他社の失敗事例、最新のリスクなど取り込まなければならない情報は多く存在する。 今後は企業が“state of the art”をどのようにモニタリングし、自社のプロセスにフィードバックしているかが問われることになるだろう。