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医療機器企業の設立のためのノウハウ

第3章:製造販売業許可取得について

第3章 製造販売業許可取得について

医療機器を日本国内で製造販売するためには、薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に基づく「製造販売業許可」が必要不可欠です。本章では、この許可の種類、取得手順、要件、そして取得のポイントについて詳しく解説します。

3.1 許可の種類

医療機器の製造販売業許可は、取り扱う医療機器のリスクに応じて3つの種類に分かれています。

3.1.1 第一種医療機器製造販売業許可

  • 対象:高度管理医療機器(クラスⅢ、Ⅳ)
  • 例:人工心臓弁、ペースメーカー、人工関節
  • 特徴:最もリスクが高く、厳格な管理体制が求められる

3.1.2 第二種医療機器製造販売業許可

  • 対象:管理医療機器(クラスⅡ)
  • 例:MRI装置、電子血圧計、超音波診断装置
  • 特徴:中程度のリスク管理が必要

3.1.3 第三種医療機器製造販売業許可

  • 対象:一般医療機器(クラスⅠ)
  • 例:体外診断用機器、X線フィルム、歯科技工用用品
  • 特徴:比較的リスクが低く、管理要件も他と比べて緩やか

注意点として、より上位の許可を持っていれば下位の医療機器も取り扱えますが、その逆はできません。例えば、第一種の許可があれば全ての医療機器を取り扱えますが、第三種の許可では一般医療機器しか取り扱えません。

3.2 取得手順

  • 製造販売業許可の取得手順は以下の通りです。
    1. 事前準備
      • 社内体制の整備
      • 必要書類の準備
      • 責任技術者の選任
    2. 申請
      • 管轄する都道府県の薬務課へ申請書類を提出
      • 申請手数料の納付
    3. 書類審査
      • 提出書類の内容確認
      • 必要に応じて追加資料の要求
    4. 実地調査
      • 申請内容と実際の体制が合致しているかの確認
      • 品質管理体制、安全管理体制の確認
    5. 審査結果の通知
      • 合格の場合、許可証が交付される
      • 不合格の場合、その理由が通知される
    6. 許可証の受領

この過程は通常2〜3ヶ月程度かかりますが、準備状況や申請の集中度合いによっては、さらに時間がかかる場合もあります。

3.3 許可要件

製造販売業許可を取得するためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。

3.3.1 人的要件

  • 総括製造販売責任者の設置
  • 資格要件:薬剤師、医師、歯科医師、獣医師、大学で関連科目を修了した者など
  • 業務経験:3年以上の医療機器の品質管理や製造販売後安全管理の経験
  • 品質保証責任者の設置
  • 製造管理、品質管理に関する業務経験が3年以上ある者
  • 安全管理責任者の設置
  • 安全確保に関する業務経験が3年以上ある者

注意点として、第一種製造販売業では、これらの責任者は兼務できません。

3.3.2 物的要件

  • 製品の製造販売に必要な設備と器具の保有
  • 例:品質試験設備、文書・記録保管設備、製品保管設備など
  • 製造販売後安全管理に必要な設備の保有
  • 例:情報処理システム、文書管理システムなど

3.3.3 体制的要件

  • 品質管理基準(GQP:Good Quality Practice)に基づく体制の構築
  • 製品の品質管理
  • 製造業者の管理
  • 品質情報及び品質不良等の処理
  • 製造販売後安全管理基準(GVP:Good Vigilance Practice)に基づく体制の構築
  • 安全管理情報の収集
  • 安全管理情報の検討及び必要な措置の実施
  • 安全確保措置の実施

3.4 取得のポイント

製造販売業許可を円滑に取得するためのポイントをいくつか紹介します。

3.4.1 早期準備

  • 許可取得には通常2〜3ヶ月かかるため、事業計画に余裕を持って組み込む
  • 特に人材の確保と育成は時間がかかるため、早めの準備が重要

3.4.2 専門家の活用

  • 薬事コンサルタントや経験豊富な人材の活用
  • PMDA(医薬品医療機器総合機構)の薬事戦略相談の利用

3.4.3 段階的取得

  • 初めは第三種から取得し、徐々に上位の許可を目指す
  • 体制整備と経験の蓄積を段階的に行うことができる

3.4.4 文書化の徹底

  • GQP、GVPに基づく手順書の作成
  • 責任者の業務経験を証明する資料の準備

3.4.5 模擬査察の実施

  • 実地調査を想定した社内での模擬査察の実施
  • 不備の早期発見と改善

3.5 よくある質問と回答

Q1: 製造販売業許可の有効期間は?
A1: 5年間です。5年ごとに更新が必要になります。

Q2: 海外で承認されている医療機器を日本で販売する場合も製造販売業許可が必要ですか?
A2: はい、必要です。海外で承認されていても、日本国内で販売するには日本の法規制に従う必要があります。

Q3: 製造販売業許可と製造業登録の違いは何ですか?
A3: 製造販売業許可は医療機器を市場に出荷する権利を持つ業者に必要で、製造業登録は実際に製造を行う業者に必要です。両者は別の概念で、多くの場合別々に取得します。

まとめ

製造販売業許可の取得は、医療機器ビジネスを展開する上で避けて通れない重要なステップです。手続きは複雑で時間もかかりますが、この過程を通じて品質管理や安全管理の体制を整えることは、長期的な事業の成功につながります。

次章では、製造販売業許可取得後に必要となる「薬機法に基づく責任者の設置と留意事項」について詳しく解説します。これらの責任者の役割を理解し、適切に選任・育成することが、医療機器企業の持続的な成長にとって極めて重要です。