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医療機器企業の設立のためのノウハウ

第2章:日本における医療機器企業設立のステップ

第2章:日本における医療機器企業設立のステップ

医療機器企業の設立は、通常の企業設立以上に慎重な計画と準備が必要です。この章では、皆さんが医療機器企業を設立する際に踏むべき具体的なステップを、順を追って解説していきます。

2.1 事業構想の策定

まず最初に取り組むべきは、しっかりとした事業構想の策定です。これは単なるアイデア段階から一歩進んで、ビジネスとして成立する可能性を検証するステップです。

 市場調査

市場調査では、ターゲットとする疾患領域の患者数、競合製品の状況、市場規模などを徹底的に調べます。例えば、日本における糖尿病患者数は約1,000万人と言われていますが、そのうち実際に継続的な血糖測定を必要としている患者さんは何人くらいいるのでしょうか。また、既存の血糖測定器にはどのような課題があり、それに対して皆さんのアイデアはどのようなソリューションを提供できるのでしょうか。

このような具体的な数字や事実を基に、自社製品の市場性を客観的に評価することが重要です。

製品コンセプト確立

市場調査の結果を踏まえ、製品コンセプトを確立します。ここでは、製品の基本的な機能や特徴、想定される使用環境、ユーザーベネフィットなどを明確にします。

例えば「非侵襲的で連続測定可能な血糖測定器」というコンセプトがあったとしましょう。これに対して、「測定精度は既存製品と同等以上」「24時間連続測定可能」「スマートフォンと連携してデータ管理が可能」といった具体的な特徴を列挙していきます。

事業モデル設計

製品コンセプトが固まったら、次は事業モデルの設計です。ここでは、どのように収益を上げるのか、という点を具体的に考えます。

医療機器の場合、単に製品を販売するだけでなく、メンテナンスサービスや消耗品の提供、さらにはデータ分析サービスなど、様々な収益モデルが考えられます。例えば、血糖測定器本体は低価格で提供し、測定に必要なセンサーを定期的に販売するというモデルや、測定データの解析サービスを月額制で提供するというモデルなどが考えられるでしょう。

2.2 法人設立

事業構想が固まったら、いよいよ法人設立の段階です。

会社形態の選択

一般的な創業においては、株式会社と合同会社(LLC)のどちらかを選択することが多いです。医療機器企業の場合、将来的な資金調達や信用力の観点から、多くの場合は株式会社を選択します。

定款作成

定款には、会社の基本的な枠組みを定めます。医療機器企業の場合、事業目的に「医療機器の製造販売」「医療機器の製造」「医療機器の輸出入」などを必ず入れておくことが重要です。これは後々の製造販売業許可取得の際に必要となります。

登記申請

必要書類を整えて法務局に登記申請を行います。医療機器企業の場合、設立時の資本金額にも注意が必要です。製造販売業の許可を取得する際、第一種製造販売業であれば5,000万円以上の資本金が必要となります。初期段階でそこまでの資本金を用意するのが難しい場合は、まずは第三種製造販売業から始めるなどの戦略も考えられます。

2.3 事業所の確保

医療機器企業として活動するためには、いくつかの重要な事業所を確保する必要があります。

本社

本社は企業の顔となる場所です。初期段階ではコストを抑えるためにバーチャルオフィスなどを利用する企業もありますが、医療機器企業の場合は実際の事業所が必要になることが多いです。特に製造販売業許可を取得する際には、専用の事務所スペースが必要となります。

研究開発拠点

製品開発を行う研究開発拠点も重要です。大学発のベンチャー企業の場合、大学のインキュベーション施設を利用できることもあります。また、自治体が運営するベンチャー支援施設なども、初期段階の研究開発拠点として活用できるでしょう。

製造所

医療機器の製造を行う場合、GMP(Good Manufacturing Practice)に適合した製造所が必要となります。自社で製造所を持つ場合もありますが、初期段階では製造を外部委託するケースも多いです。その場合でも、製造管理や品質管理を行う部門は自社内に必要となります。

品質管理部門

医療機器の品質管理は非常に重要です。製造販売業許可を取得する際には、独立した品質管理部門の設置が求められます。この部門は、製品の品質保証だけでなく、市販後の安全管理も担当します。

2.4 人材の確保

医療機器企業の成功には、適切な人材の確保が不可欠です。以下のような人材が特に重要となります。

経営陣

医療機器ビジネスの特殊性を理解し、規制当局や医療機関とのコミュニケーションができる経営陣が必要です。技術面だけでなく、薬事規制や保険制度にも精通している人材が望ましいでしょう。

技術者

製品開発を担う技術者は企業の要となります。医療機器の場合、工学的知識だけでなく、医学や生物学の知識も必要となることが多いです。

薬事担当者

薬事規制への対応は医療機器ビジネスの要です。経験豊富な薬事担当者の存在が、スムーズな承認取得の鍵となります。

臨床開発担当者

多くの医療機器で臨床試験が必要となります。医療機関との折衝や治験の管理ができる臨床開発担当者も重要な人材です。

営業担当者

医療機器の営業は、単なる製品説明だけでなく、医療従事者に対する教育的な役割も担います。医学的知識を持ち、医療現場のニーズを理解できる人材が求められます。

2.5 初期の事業計画策定

最後に、これらの要素を踏まえた5年間の事業計画を策定します。ここでは、製品開発から承認取得、そして市場投入までの具体的なスケジュールと、それに伴う資金計画を立てます。

例えば、1年目は基礎研究と試作品開発、2年目は前臨床試験と薬事戦略相談、3年目は臨床試験、4年目は承認申請と製造体制の確立、5年目に上市と保険収載、といったような具体的なマイルストーンを設定します。

各段階で必要となる資金も見積もり、どのタイミングでどのような資金調達を行うかも計画に含めます。例えば、創業期は公的補助金や研究開発型ベンチャーに特化したVCからの調達を目指し、臨床試験の段階では大手製薬企業やメディカルデバイス企業との提携を模索する、といった具体的な戦略を立てておくことが重要です。

以上が、医療機器企業設立の基本的なステップです。次章からは、これらのステップをより詳細に解説していきます。皆さんの革新的なアイデアを、確実に事業化につなげていくために、一緒に考えていきましょう。