6.1 基本要件基準の概要と目的
6.1.1 基本要件基準の法的位置づけ
基本要件基準は、薬機法(医薬品医療機器等法)第41条第3項に基づいて厚生労働大臣が定める「医療機器及び体外診断用医薬品の製造販売承認申請等に必要な基準」です。これは医療機器が実質的に満たすべき安全性と有効性の要件を定めた基準であり、すべての医療機器は市場に出す前にこの基準への適合性を証明する必要があります。
基本要件基準は、医療機器等の製造販売承認を取得するための「必須条件」として位置付けられており、これに適合しない医療機器は日本市場での販売が認められません。具体的には、「医療機器の製造販売承認申請等に必要な基準」(平成17年厚生労働省告示第122号)として法制化されています。
医療機器の基本要件適合性は、「基本要件基準適合性チェックリスト」という形で文書化され、承認申請資料の一部として審査当局(PMDAや認証機関)に提出されます。この文書は、製品が基本要件の各項目にどのように適合しているかを説明し、その証拠となる試験成績書や規格適合証明書などを引用する重要な文書です。
6.1.2 承認・認証における基本要件基準の役割
基本要件基準は医療機器の承認・認証プロセスにおいて次のような役割を果たします:
役割 | 内容 |
---|---|
安全性・有効性の基準 | 市場に出す医療機器が最低限満たすべき安全性と有効性の要件を定義 |
審査の一貫性確保 | すべての医療機器を同じ基準で評価することで審査の公平性と一貫性を保証 |
企業の設計指針 | 開発初期段階から考慮すべき安全性・有効性の要件を明確化 |
国際整合性の確保 | 国際的な規制との調和を図り、グローバル市場への参入障壁を低減 |
医療機器の審査プロセスでは、申請者は開発した製品が基本要件基準のすべての項目に適合していることを証明する必要があります。これは「基本要件基準適合性チェックリスト」という形で文書化され、該当する各要件に対してどのように適合しているか、その証拠となる資料(試験成績書、リスク分析書、規格適合証明書など)とともに説明します。
審査当局は、このチェックリストと引用される証拠資料を精査し、製品が基本要件基準に適合していると判断できれば、その他の承認要件も満たしていることを前提に承認を与えます。
6.1.3 国際整合性(GSPRとの関係)
日本の基本要件基準は、国際的な医療機器規制の調和を目指すGHTF(Global Harmonization Task Force、現IMDRF)の枠組みを基に策定されており、EU(欧州連合)のGSPR(General Safety and Performance Requirements、一般安全性及び性能要求事項)と高い整合性を持っています。
両者の関係と特徴は以下の通りです:
項目 | 日本の基本要件基準 | EUのGSPR |
---|---|---|
法的根拠 | 薬機法に基づく厚生労働省告示 | EU医療機器規則(MDR)の付属書I |
整合性 | GSPRと基本的な要求事項は同等 | 日本の基本要件基準と基本的な要求事項は同等 |
適合証明 | 基本要件基準適合性チェックリスト | 適合宣言書、技術文書による証明 |
特徴的な違い | 製造施設に関する要件は別体系(QMS省令) | GSPRに製造施設に関する要件を含む |
この国際整合性には大きなメリットがあります:
- グローバル展開が容易になる:日本の基本要件基準に適合する製品設計は、EUのGSPRにも大部分が適合するため、海外展開の障壁が低減されます。
- 開発・評価の効率化:同じ試験データや評価結果を複数の国・地域での申請に利用できるため、重複作業を避けることができます。
- 国際標準の活用:ISO/IEC等の国際規格を用いた適合性証明が世界的に認められやすくなります。
スタートアップ企業にとっては、初めから国際展開を視野に入れた製品開発をすることで、将来的な市場拡大の際の障壁を低減できるメリットがあります。基本要件基準への適合を検討する際には、同時にEUのGSPRも参照し、両方の要件を満たす設計を目指すことが戦略的に有効です。
ただし、具体的な適用の仕方や解釈に地域差があるため、各市場向けの専門家の助言を得ることも重要です。特に、リスク管理の考え方や臨床評価の要件などは、実務上の違いがある場合があります。