9.6 揃えるべきQMS文書の一覧
QMS(品質マネジメントシステム)の運用には、適切な文書体系の整備が不可欠です。医療機器企業、特にスタートアップ企業が準備すべき基本的なQMS文書は以下の通りです。
9.6.1 品質マニュアル
品質マニュアルはQMSの最上位文書であり、組織の品質システム全体を概説するものです。含めるべき要素:
- 品質方針と品質目標
- 組織体制と責任
- QMSの適用範囲
- プロセス間の相互関係
- 手順書への参照
- 除外項目(該当する場合)と正当化理由
スタートアップにとっては、簡潔かつ明確な品質マニュアルが理想的です。過度に詳細な記述は避け、プロセスフローやマップを活用して視覚的に示すことが効果的です。
9.6.2 必須手順書(6つの必須手順書)
ISO 13485およびQMS省令で明示的に要求される6つの手順書:
- 文書管理手順書
- 文書の作成・承認・配布・改訂プロセス
- 外部文書の管理方法
- 文書の識別方法
- 記録管理手順書
- 記録の識別・保管・保護・取出し
- 保管期間と廃棄方法
- 記録の完全性確保方法
- 内部監査手順書
- 監査計画と実施方法
- 監査員の選定基準
- 報告と是正処置の追跡
- 不適合管理手順書
- 不適合品の識別・文書化・隔離
- 不適合の評価と処置決定
- 再検証プロセス
- 是正処置手順書
- 不適合原因の特定方法
- 是正処置の実施と効果確認
- 類似プロセスへの水平展開
- 予防処置手順書
- 潜在的不適合の特定方法
- 予防処置の計画と実施
- 処置の有効性評価
9.6.3 製品標準書
製品標準書は製品の設計、製造、検査に関する詳細を記載した文書です:
- 製品仕様書
- 設計仕様書
- 製造工程仕様書
- 検査基準書
- 包装・表示仕様書
SaMD開発企業では、ソフトウェア要求仕様書、アーキテクチャ設計書、インターフェース仕様書などが該当します。
9.6.4 各種記録様式
QMS活動の証拠となる記録を維持するための様式:
- 設計レビュー記録
- リスク分析記録
- 検証・バリデーション記録
- トレーニング記録
- 内部監査記録
- マネジメントレビュー記録
- 是正・予防処置記録
効率的な記録管理のために、電子的フォーマットと自動化ツールの活用を検討すべきです。
9.6.5 バリデーション関連文書
バリデーション活動を文書化するための文書:
- バリデーションマスタープラン
- プロセスバリデーション計画書・報告書
- ソフトウェアバリデーション計画書・報告書
- 設計バリデーション計画書・報告書
- クリーニングバリデーション(該当する場合)
SaMD企業では、ソフトウェア検証・バリデーション文書が特に重要です。
9.6.6 リスクマネジメント文書
ISO 14971に基づくリスク管理活動の文書:
- リスクマネジメント計画書
- リスク分析報告書
- リスク評価報告書
- リスクコントロール措置の検証報告書
- 残留リスク評価報告書
- リスクマネジメント報告書
9.6.7 クラス分類別の必要文書
医療機器のクラス分類により、追加で必要となる文書があります:
クラスI(一般医療機器)
- 基本的なQMS文書(上記の必須文書)
- 簡易的な技術文書
クラスII(管理医療機器)
- クラスIの文書に加え
- より詳細な設計開発文書
- 安定性試験関連文書(該当する場合)
クラスIII/IV(高度管理医療機器)
- クラスIIの文書に加え
- 詳細な前臨床・臨床評価文書
- 製造工程バリデーション文書
- より厳格なサプライヤー管理文書
スタートアップ企業では、段階的な文書整備を行い、製品開発フェーズと規制要件に応じた文書を優先的に準備することが効率的です。過剰な文書作成は避け、必要十分な文書体系を構築することが重要です。