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8.4 SaMD特有の申請・審査対応

SaMD(Software as a Medical Device)の承認申請・審査においては、通常の医療機器とは異なる特有の課題があります。ソフトウェアの特性を理解した上で、適切な申請区分の選択、必要なエビデンスの準備、規制当局との効果的なコミュニケーションが重要です。

8.4.1 SaMDの申請区分の判断

SaMDの承認申請では、適切な申請区分の判断が重要です。申請区分によって審査期間、必要な資料、審査の厳格さが異なります。

申請区分判断のポイント:

  1. 新医療機器・改良医療機器・後発医療機器の区分
    • 新医療機器:既存の一般的名称に該当しない新規性の高いSaMD
    • 改良医療機器:既存品と異なる使用目的・効能を持つSaMD
    • 後発医療機器:既存品と同等の使用目的・効能を持つSaMD
  2. 一般的名称と定義の確認
    • プログラム関連の304の一般的名称から選択
    • 定義への該当性確認
  3. 実データに基づく判断
    • 類似既承認品との比較
    • 新規アルゴリズム・用途の有無
    • 臨床的位置づけの違い

特にAI/MLを活用したSaMDでは、使用するアルゴリズムや学習データの新規性によって区分判断が複雑になるため、PMDAへの相談を活用することが推奨されます。

8.4.2 必要なエビデンスとバリデーションデータ

SaMD承認申請には、その有効性・安全性を示す適切なエビデンスとバリデーションデータが必要です。

必要なエビデンスの種類:

評価項目必要なエビデンス備考
性能評価技術的性能評価(精度、再現性等)、臨床的性能評価申請区分により要求レベルが異なる
安全性評価リスク分析結果、ハザード対策の有効性ISO 14971に基づく
ソフトウェア検証IEC 62304準拠の開発プロセス証拠、V&V活動の結果クラスに応じた詳細度
ユーザビリティIEC 62366に基づく評価、ユーザーテスト結果特にユーザーインターフェースが重要
臨床データ臨床研究結果、性能を裏付ける臨床エビデンス新医療機器区分では特に重要

AI/ML SaMD特有のエビデンス:

  1. 学習データセットの妥当性
    • データソースと品質
    • サンプルサイズと代表性
    • バイアス評価
  2. アルゴリズム評価
    • モデル性能指標(AUC、感度、特異度等)
    • 交差検証結果
    • 外部バリデーション結果
  3. 説明可能性データ
    • 決定根拠の説明方法
    • 特徴重要度の評価
    • エッジケースの説明分析

8.4.3 PMDA相談の活用方法

SaMDの承認申請では、PMDAとの事前相談を効果的に活用することが成功の鍵となります。

主なPMDA相談の種類:

  1. 開発前相談
    • 開発初期段階での相談
    • 規制要件の理解
    • 開発戦略の確認
  2. 医療機器開発前相談
    • 開発計画の妥当性
    • 非臨床試験計画
    • 臨床試験の必要性
  3. 品質相談
    • 品質評価項目・試験方法
    • 規格設定の妥当性
    • QMS対応の確認
  4. プロトコル相談
    • 臨床試験デザイン
    • 評価指標の妥当性
    • 症例数設定
  5. 評価相談
    • 申請データパッケージ
    • 追加試験の要否
    • 申請区分の確認

SaMD特有の相談:

  • プログラム医療機器相談
  • AI/ML医療機器相談
  • サイバーセキュリティ相談

相談を効果的に活用するためには、相談資料の充実、論点の明確化、相談記録の適切な活用が重要です。

8.4.4 審査における頻出論点と対応戦略

SaMDの承認審査では、以下のような論点が頻出します。これらに対する対応戦略を事前に検討することが重要です。

頻出論点:

  1. 使用目的・効能効果の明確性
    • 医療機器としての位置づけ
    • 臨床的有用性の根拠
    • 使用環境や対象患者の限定
  2. ソフトウェアの検証・妥当性確認
    • 安全クラスに応じた開発プロセス
    • テスト範囲の網羅性
    • エッジケースへの対応
  3. リスク管理の適切性
    • リスク分析の網羅性
    • リスク低減策の有効性
    • 残留リスクの受容性
  4. 市販後の変更管理
    • アップデート計画
    • 変更時の基準
    • 不具合対応体制
  5. AI/MLに関する論点(該当する場合)
    • 学習データの妥当性
    • アルゴリズムの安定性
    • 市販後の性能変化管理

対応戦略:

  1. 事前準備の徹底
    • 類似既承認品の調査
    • 審査報告書の精査
    • 照会事項の予測と準備
  2. 科学的エビデンスの充実
    • 性能評価の綿密な計画
    • 第三者評価の活用
    • 文献的裏付け
  3. 開発プロセスの透明性確保
    • トレーサビリティの維持
    • 開発記録の整備
    • 変更履歴の管理
  4. リスク対策の体系化
    • リスク対策とエビデンスの紐付け
    • リスク・ベネフィット分析の充実
    • 市販後リスク管理計画の提示

効果的な審査対応のためには、審査担当者との建設的なコミュニケーションを心がけ、照会事項に対して科学的かつ論理的な回答を行うことが重要です。