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7.2 申請区分別の承認プロセス

7.2.1 新医療機器の承認プロセス

新医療機器とは、既に承認された医療機器と構造、使用方法、効能・効果または性能が明らかに異なる医療機器です。新規性が高く、これまでに例のない医療機器の場合、最も厳格な審査プロセスが適用されます。

7.2.1.1 申請資料の構成と準備

新医療機器の承認申請には以下の資料が必要です:

資料区分主な内容準備のポイント
起原又は発見の経緯開発背景、コンセプト、類似品との相違点医療ニーズとの関連性を明確に説明する
外国における使用状況海外での承認・販売状況、不具合情報各国の規制当局名、承認日、販売数量等を具体的に記載
設計検証・妥当性確認資料性能、安全性、有効性に関する試験結果適用した規格を明示し、合理的な評価方法を選択
原材料に関する資料構成部品の材質、規格、生物学的安全性原材料の選定理由と安全性評価結果を記載
品質管理方法製造工程、品質検査項目、判定基準クリティカルな工程と品質特性を特定する
リスク分析結果ハザードの特定と対策、リスク評価結果ISO 14971に準拠したリスクマネジメント
臨床試験成績治験計画、実施状況、有効性・安全性結果評価項目の妥当性と統計学的有意性を示す
使用成績調査計画市販後調査の計画長期的な安全性・有効性評価方法を提示

作成のポイント:

  • 資料はPMDAの「医療機器の製造販売承認申請書の作成に際し留意すべき事項について」に従って構成する
  • 新規性を明確に示す(類似品との比較表を活用)
  • 文献等の引用は原典を明記し、翻訳資料には原文も添付する
  • 図表を効果的に活用し、複雑な情報を視覚的に分かりやすく提示する

7.2.1.2 専門協議への対応

新医療機器の審査では、PMDAが外部専門家を招集した専門協議が実施されます。

専門協議の段階内容対応ポイント
事前準備想定質問の洗い出しと回答準備臨床的位置づけや既存療法との違いを客観的に説明できるよう準備
協議中専門家からの質問への回答科学的データに基づく簡潔明瞭な回答を心がける
追加対応追加資料の要求への対応要求の趣旨を正確に理解し、過不足のない資料を迅速に提出する

専門家が注目するポイント:

  • 臨床的意義(医療現場のニーズへの対応度)
  • 安全性プロファイル(想定されるリスクと対策の妥当性)
  • 有効性エビデンスの質と量(データの信頼性、統計的有意性)
  • 既存療法と比較したベネフィット・リスクバランス

7.2.1.3 審査の進め方と承認までのタイムライン

新医療機器の承認プロセスは以下のように進みます:

段階標準的期間主なアクション
申請前相談承認申請の6〜12ヶ月前開発前相談、評価相談、申請前相談等の活用
申請受付申請日PMDAに承認申請書と添付資料を提出
申請資料の事前評価申請後1〜2ヶ月PMDA審査官による資料の形式的完全性確認
専門委員の選定申請後2〜3ヶ月PMDAが適切な分野の専門委員を選定
初回照会事項の発出申請後3〜4ヶ月審査官からの質問・指摘事項への回答
追加照会への対応申請後4〜8ヶ月複数回の質疑応答(通常2〜5回)
専門協議申請後8〜10ヶ月外部専門家を交えた検討会議
総合機構審議申請後10〜11ヶ月PMDA内での最終審議
薬事・食品衛生審議会申請後11〜12ヶ月厚生労働省の審議会での審議
承認申請後約12ヶ月厚生労働大臣による承認

新医療機器の審査期間短縮のための戦略:

  1. 承認申請前相談の徹底活用
    • 開発早期からの相談(開発前相談、治験相談等)
    • 申請前相談での申請区分と必要資料の確認
  2. 優先審査制度の活用検討
    • 希少疾病用医療機器指定
    • 先駆け審査指定制度
    • 条件付き早期承認制度
  3. 効率的な照会対応
    • 回答期限の遵守
    • 明確かつ網羅的な回答
    • 必要に応じた面談の活用

7.2.2 改良医療機器の承認プロセス

改良医療機器とは、既承認医療機器と構造、使用方法、効能・効果または性能が実質的に同等ではない医療機器です。新規性はあるものの、新医療機器ほどの斬新さはない場合に適用されます。

7.2.2.1 臨床あり改良の場合

臨床データが必要な改良医療機器の場合、以下のプロセスとなります:

資料区分臨床あり改良での特徴準備のポイント
改良点の説明資料既存品からの変更点とその影響変更理由と患者メリットを明確に説明
非臨床試験資料変更が性能・安全性に与える影響評価改良部分に焦点を当てた評価試験
臨床試験資料改良による臨床的有用性証明適切なエンドポイント設定と症例数
既存品との比較同等でない点の説明違いを表形式でまとめ、臨床的意義を解説

臨床あり改良の審査期間:

  • 標準的審査期間:約10ヶ月
  • 優先審査制度適用時:約7ヶ月

留意点:

  • 臨床試験の規模は新医療機器より小規模でも可能な場合がある
  • 特定の使用条件や対象患者を限定することで臨床評価を簡略化できる場合も

7.2.2.2 臨床なし改良の場合

臨床データが不要な改良医療機器の場合、以下のプロセスが適用されます:

資料区分臨床なし改良での特徴準備のポイント
改良点の説明資料既存品からの変更点技術的変更の詳細説明
非臨床試験資料機械的・電気的安全性、性能試験等既存品と同等以上の性能・安全性証明
臨床評価報告書既存の臨床データや文献による評価臨床試験不要の科学的妥当性説明
リスク評価資料改良による新たなリスク分析改良前後のリスク比較

臨床なし改良の審査期間:

  • 標準的審査期間:約6ヶ月
  • 優先審査制度適用時:約4ヶ月

臨床試験省略の正当化ポイント:

  • 非臨床試験で十分に安全性・有効性が評価可能であることの説明
  • 既存の臨床データからの外挿の妥当性証明
  • 類似医療機器の使用実績データの活用

7.2.2.3 申請区分の判断基準

改良医療機器の申請区分の判断基準は以下の通りです:

判断要素臨床あり改良への該当基準臨床なし改良への該当基準
使用目的の変更疾患・症状の追加等で臨床評価が必要操作方法の変更等で非臨床評価で十分
作用機序の変更治療原理の変更で臨床評価が必要同じ治療原理内での技術改良
構造・原理の変更患者への新たなリスクが生じる変更安全性向上のための改良
性能の変更有効性に関わる性能向上利便性向上等の周辺的変更
使用材料の変更生体接触部の材質変更非接触部の材質変更

判断に迷う場合の相談制度:

  • PMDA医療機器開発前相談
  • 申請区分相談
  • 簡易相談

7.2.2.4 審査のポイントと準備すべき資料

改良医療機器の審査では以下のポイントが重視されます:

審査ポイント準備すべき資料資料作成のコツ
改良点の明確化新旧比較表変更点を機能・構造・材料等の観点から整理
改良による影響評価性能評価資料変更が与える影響範囲を特定し評価
臨床的位置づけ臨床的意義の説明資料医療ニーズと改良による臨床的メリット説明
リスク分析リスク管理報告書改良による新たなリスクとその対策
品質管理方法製造工程と品質管理資料改良に関わる工程の管理方法

審査で頻出する指摘事項:

  1. 既存品との違いが不明確
  2. 改良の臨床的意義の説明不足
  3. 変更による影響範囲の特定が不十分
  4. リスク分析が不十分
  5. 試験方法の妥当性説明不足

7.2.3 後発医療機器の承認プロセス

後発医療機器とは、既に承認されている医療機器と構造、使用方法、効能・効果及び性能が実質的に同等であるとされる医療機器です。

7.2.3.1 同等性証明のための資料作成

後発医療機器申請の核心は、既承認品との同等性証明です:

同等性証明の要素資料内容作成のポイント
使用目的の同等性適応疾患、使用方法の比較効能・効果の記載が同一であることを示す
構造・原理の同等性機器の構成、動作原理の比較寸法・材質等の差異を許容範囲内で説明
安全性の同等性電気的安全性、生物学的安全性等の試験結果適用される安全規格への適合証明
性能の同等性機器の仕様、機能の比較性能指標が同等以上であることを示す
品質管理の同等性製造工程、検査項目の比較品質確保のための管理方法の説明

同等性証明資料の構成:

  1. 同等性総括表(比較表形式で差異を明示)
  2. 同等性を裏付ける試験成績
  3. 差異がある場合の臨床的影響の考察

7.2.3.2 審査の進め方と承認までのタイムライン

後発医療機器の審査プロセスは、新医療機器や改良医療機器と比較して簡略化されています:

段階標準的期間主なアクション
申請前準備申請前2〜3ヶ月同等性検討、必要試験実施
申請受付申請日PMDAに承認申請書と添付資料を提出
形式審査申請後1ヶ月資料の不備確認
内容審査・照会申請後1〜3ヶ月審査官からの質問・指摘事項への回答
承認申請後約4ヶ月厚生労働大臣による承認

後発医療機器の申請戦略:

  1. 既承認品の選定が重要(最も類似した製品を選ぶ)
  2. 同等性に疑義が生じる点は事前に抽出し、非臨床試験で検証
  3. 簡易相談を活用し、同等性の考え方を事前確認
  4. 照会への迅速な回答で審査期間を短縮

7.2.3.3 審査のポイントと準備すべき資料

後発医療機器の審査では以下の資料が重要です:

資料区分特徴作成のポイント
同等性評価概要既承認品との比較総括差異を正直に記載し、影響が軽微である根拠を示す
基本要件基準適合性チェックリスト規制要件への適合証明適合の根拠となる試験結果や規格との対応を明示
添付文書案使用上の注意等原則として既承認品に準じた内容とする
リスク管理報告書リスク分析と対策既承認品と異なる点に関するリスク評価に注力
品質管理の概要製造工程と検査製造工程の特性に応じた品質管理方法を説明

審査官が重視するポイント:

  1. 同等だと主張している製品間の差異の臨床的影響
  2. 性能試験方法の妥当性
  3. リスク評価の網羅性
  4. 添付文書案の適切性

7.2.3.4 既存品との同等性証明のポイント

同等性証明を成功させるためのポイントは以下の通りです:

同等性証明の観点評価方法成功のコツ
物理的・化学的特性材質分析、寸法測定等差異があっても同等の安全性を証明
電気的安全性IEC 60601シリーズ等の規格試験規格要求事項への適合性を証明
生物学的安全性ISO 10993シリーズに基づく試験直接接触部位の材質が同一か、同等性を証明
滅菌・無菌性保証ISO 11135/11137等に基づく検証滅菌方法が同等か、有効性証明
安定性・耐久性加速試験、耐久試験使用期間中の性能維持を証明
性能特性機能試験、精度試験等既承認品と同等以上の性能証明

同等性証明で注意すべき点:

  1. わずかな差異でも誠実に記載し、影響評価を行う
  2. 客観的なデータに基づいて同等性を示す
  3. 類似点よりも相違点に焦点を当てた説明を行う
  4. 同等と言えない場合は改良医療機器として申請を検討

審査官から特に注目される相違点:

  • 原材料の変更
  • 滅菌方法の変更
  • ソフトウェアの変更
  • 製造方法の重大な変更
  • 使用期間・回数の延長