7.1 承認・認証・届出の区分
医療機器を日本国内で製造販売するためには、医薬品医療機器等法(薬機法)に基づき、その医療機器のリスクや特性に応じた手続きが必要です。主な手続きは「承認」「認証」「届出」の3種類あり、それぞれ対象となる医療機器や要件、審査プロセスが異なります。医療機器スタートアップにとって、自社製品がどの区分に該当するかを早期に特定することは、開発計画や薬事戦略を立案する上で極めて重要です。
7.1.1 医療機器の手続き区分の概要
手続き区分 | 対象医療機器 | 審査・確認主体 | 処理期間の目安 | 審査内容 |
---|---|---|---|---|
承認 | 高度管理医療機器(クラスⅢ・Ⅳ)<br>管理医療機器(クラスⅡ)のうち認証基準がないもの<br>新医療機器 | PMDA/厚生労働省 | 新医療機器: 12ヶ月<br>改良医療機器(臨床あり): 9ヶ月<br>改良医療機器(臨床なし): 7ヶ月<br>後発医療機器: 5ヶ月 | 品質、有効性、安全性の総合的評価 |
認証 | 管理医療機器(クラスⅡ)のうち認証基準があるもの<br>高度管理医療機器(クラスⅢ)のうち認証基準があるもの | 第三者認証機関 | 3〜4ヶ月 | 認証基準への適合性評価 |
届出 | 一般医療機器(クラスⅠ) | 各都道府県 | 即日〜数週間 | 形式的確認のみ |
7.1.2 承認制度の詳細
(1) 対象となる医療機器
承認制度の対象となる医療機器は、以下のいずれかに該当します:
- 新医療機器:これまでに国内で承認されたものと構造・原理、使用方法、性能等が明らかに異なる医療機器
- 既承認医療機器と類似するが、認証基準が定められていない医療機器:
- 高度管理医療機器(クラスⅢ・Ⅳ)で認証基準がないもの
- 管理医療機器(クラスⅡ)で認証基準がないもの
- 改良医療機器:既承認医療機器と実質的に同等ではないが、新医療機器にも該当しない医療機器
(2) 承認申請の特徴と流れ
承認申請は、以下の特徴があります:
- 審査主体: 独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が審査を行い、厚生労働大臣が承認
- 審査内容: 品質、有効性、安全性に関する審査に加え、製造管理・品質管理の方法の適切性も審査(QMS適合性調査)
- 申請資料: 医療機器の特性に応じた品質、安全性、有効性を示す資料、基本要件基準への適合性を示す資料等
- 申請区分: 新医療機器、改良医療機器(臨床あり/なし)、後発医療機器の区分により、必要な資料や審査期間が異なる
(3) 申請から承認までの基本的な流れ
- 申請前相談(必要に応じて)
- 承認申請書と添付資料の提出(PMDAへ)
- 申請手数料の納付
- 形式審査(書類の不備確認)
- 専門審査(品質、有効性、安全性の技術的審査)
- 照会事項への対応
- QMS適合性調査(製造管理・品質管理の方法の適切性確認)
- 審査報告書作成
- 薬事・食品衛生審議会医療機器・体外診断薬部会での審議(主に新医療機器の場合)
- 厚生労働大臣による承認
(4) 承認審査の特徴と注意点
- 審査期間: 医療機器の新規性や複雑性によって大きく異なる
- 照会事項: 審査過程で複数回の照会事項が発生する可能性が高い
- 専門協議: 新医療機器等では外部専門家を交えた専門協議が実施される
- QMS適合性調査: 製造所ごとに適合性調査が必要(基本的に実地調査)
- 審査手数料: 申請区分や製品特性によって異なる(数十万円〜数百万円)
7.1.3 認証制度の詳細
(1) 対象となる医療機器
認証制度の対象となる医療機器は、以下に該当します:
- 認証基準が定められている管理医療機器(クラスⅡ)
- 認証基準が定められている高度管理医療機器(クラスⅢ)の一部
認証基準とは、厚生労働大臣が定める医療機器の構造・原理、性能、使用方法等に関する基準であり、JIS規格や国際規格(ISO/IEC)を引用したものが多くあります。
(2) 認証申請の特徴と流れ
認証申請は、以下の特徴があります:
- 審査主体: 厚生労働大臣の登録を受けた第三者認証機関(国内14機関程度)
- 審査内容: 認証基準への適合性確認と製造管理・品質管理の方法の適切性の確認
- 申請資料: 認証基準への適合性を示す資料、基本要件基準への適合性を示す資料等
- 迅速性: 承認に比べて手続きが迅速(標準的な処理期間は3〜4ヶ月)
(3) 申請から認証までの基本的な流れ
- 認証機関の選定と事前相談(必要に応じて)
- 認証申請書と添付資料の提出(認証機関へ)
- 申請手数料の納付
- 書類審査(認証基準への適合性確認)
- 照会事項への対応
- QMS適合性調査(製造管理・品質管理の方法の適切性確認)
- 認証書の交付
(4) 認証制度の特徴と利点
- 審査の予見性: 認証基準が明確に定められているため、審査結果の予見性が高い
- 審査期間の短縮: 承認に比べて審査期間が短い(標準的には3〜4ヶ月)
- 業界標準への準拠: 国際的に認められた規格への適合を求められることが多い
- 認証機関の選択: 複数の認証機関から選択できるため、専門性やサービス内容で選定が可能
- コスト: 承認に比べて申請コストが低い場合が多い(数十万円程度)
7.1.4 届出制度の詳細
(1) 対象となる医療機器
届出制度の対象となる医療機器は以下に該当します:
- 一般医療機器(クラスⅠ): 不具合が生じた場合でも、人体へのリスクが極めて低いと考えられる医療機器
例:メス、ピンセット、医療用X線フィルム、単純な医療用マスク、絆創膏、手術用手袋など
(2) 届出の特徴と流れ
届出は、以下の特徴があります:
- 確認主体: 各都道府県
- 確認内容: 形式的な確認のみ(技術的審査はない)
- 届出資料: 届出書と添付資料(品目仕様、外観図など最小限の資料)
- 迅速性: 即日〜数週間で手続き完了
(3) 届出から製造販売開始までの基本的な流れ
- 製造販売業許可の取得(必要な場合)
- 製造業登録(必要な場合)
- 医療機器製造販売届出書の提出(都道府県へ)
- 届出手数料の納付
- 届出受理(届出番号の発行)
- QMS体制の構築(自己責任)
- 製造販売の開始
(4) 届出制度の特徴と注意点
- 審査なし: 技術的な審査はなく、形式的な確認のみで受理される
- 迅速性: 手続きが非常に簡便で迅速
- コスト: 手数料が安価(数千円程度)
- 自己責任: 技術的審査がないため、基準適合性は自己責任で担保する必要がある
- 市販後監視: 届出済み製品であっても市販後の安全管理義務はある
7.1.5 手続き区分の選択と戦略
(1) 手続き区分の判断フロー
医療機器の手続き区分は、以下のフローで判断します:
- クラス分類の特定:
- クラスⅠ → 届出
- クラスⅡ・Ⅲ・Ⅳ → 次のステップへ
- 認証基準の有無の確認:
- 認証基準あり → 認証
- 認証基準なし → 承認
- 新規性の確認(承認の場合):
- 新医療機器
- 改良医療機器(臨床あり/なし)
- 後発医療機器
(2) スタートアップ企業にとっての戦略的選択
スタートアップ企業にとって、手続き区分の選択は戦略的に重要です:
- リソース制約下での選択:
- 初期段階では、届出または認証対象の製品から開始することで、速やかな市場参入が可能
- 承認が必要な製品の場合、必要なリソース(時間、資金、人材)の確保が重要
- 製品ポートフォリオの段階的構築:
- 届出→認証→承認という順での製品展開で、徐々に経験と実績を積む
- 初期製品で市場ニーズを検証しながら、高付加価値製品の開発を進める
- 申請区分の戦略的選択:
- 製品特性により、後発医療機器として申請できるケースを優先的に検討
- 新規性が高い場合でも、適切な申請区分(改良医療機器等)を選択することで審査負担を軽減
7.1.6 手続き区分選択における実務上の疑問点と対応
(1) クラス分類が不明確な場合
- 対応策:
- 類似製品のJMDN(日本医療機器分類番号)コードを調査
- PMDAの医療機器相談制度(簡易相談等)を活用
- 業界団体や専門コンサルタントへの相談
(2) 認証基準の適用可否が不明確な場合
- 対応策:
- 認証基準の詳細内容を確認(適用範囲、技術的要件等)
- 認証機関への事前相談
- 認証基準の周辺領域への拡大解釈は避け、明確な適合判断を行う
(3) 新医療機器か改良医療機器かの判断が難しい場合
- 対応策:
- 類似の既承認品との詳細比較分析
- PMDAの対面助言相談(医療機器開発前相談、医療機器臨床試験要否相談等)の活用
- 保守的な判断(より厳格な区分での申請準備)
(4) 後発医療機器としての申請可能性の判断
- 対応策:
- 同等性評価に必要な既承認品の情報収集
- 同等性を示すためのエビデンス計画
- 疑義がある場合はPMDA相談の活用
7.1.7 承認・認証・届出における留意事項
(1) 最新の規制動向への対応
医療機器規制は常に更新されているため、最新動向の把握が重要です:
- 薬機法改正による制度変更
- 認証基準の新設・改定
- 審査ガイドラインの発行・更新
- 国際整合化に伴う規制変更
(2) 国際展開を見据えた申請区分選択
グローバル展開を検討する場合は、以下も考慮すべきです:
- 日本での申請区分と海外(FDA、EU MDR等)での区分の違い
- 各国での申請順序の戦略的選択
- 日本での承認・認証データの海外申請への活用可能性
- 国際標準(ISO/IEC)への適合による相互認証の可能性
(3) 法改正による新制度の活用
薬機法改正により新設された制度の戦略的活用も検討すべきです:
- 条件付き早期承認制度
- 変更計画確認手続制度(PACMP)
- 特定用途医療機器制度
7.1.8 まとめ:スタートアップ企業のための実践的アプローチ
医療機器スタートアップにとって、承認・認証・届出の選択は単なる規制対応ではなく、事業戦略そのものに影響を与える重要な判断です。以下の点を踏まえた実践的アプローチが重要です:
- 早期の戦略立案:
- 開発初期段階からの薬事戦略検討
- 複数シナリオの準備(最良/最悪のケース)
- 適切な専門家の関与:
- 薬事専門家の早期起用
- PMDAや認証機関との積極的なコミュニケーション
- 段階的アプローチ:
- リスクの低い製品からの開始
- 承認実績の蓄積による組織的な学習
- 規制情報の継続的収集:
- 業界団体への参加
- 専門セミナー・研修への参加
- 定期的な規制動向チェック
適切な手続き区分の選択と効率的な申請プロセスの実行が、医療機器開発の成功と市場投入の加速に大きく貢献します。