4.3 安全管理責任者
医療機器企業において、安全管理責任者は製品の市販後安全管理を担う重要な役割です。以下では、安全管理責任者の役割、資格要件、経験要件、および兼任の可否について詳しく解説します。
4.3.1 役割と責務
安全管理責任者は、製造販売後の医療機器の安全性確保のために以下の責務を担います:
- 安全確保業務の統括
- 市販後の安全性情報の収集・評価・分析
- 不具合や健康被害の報告対応
- 安全確保措置の実施(回収、改修、情報提供等)
- 安全管理情報の収集・評価
- 医療機関、販売業者、学術文献等からの情報収集
- 収集した情報の評価と措置の要否判断
- 総括製造販売責任者への報告
- 安全確保措置の立案・実施
- 回収、改修、添付文書改訂等の安全確保措置の立案
- 安全確保措置の実施状況の確認
- 措置結果の評価
- GVP(医薬品・医療機器等の製造販売後安全管理の基準)遵守
- 安全管理業務手順書の作成・管理
- 安全管理に関する教育訓練の実施
- 安全管理に関する記録の保管
- 当局報告
- 不具合等報告書の作成・提出
- 定期報告書等の作成・提出
- 当局からの照会対応
4.3.2 資格要件(第一種〜第三種別)
安全管理責任者の資格要件は、製造販売業の種類によって異なります:
製造販売業の種類 | 安全管理責任者の主な資格要件 |
---|---|
第一種製造販売業<br>(高度管理医療機器) | • 薬剤師<br>• 大学等で物理学、化学、生物学、工学、情報学等の科目を修めて卒業した者<br>• 医師、歯科医師、獣医師<br>• 大学院において医薬品等の安全確保に関する専門課程を修了した者 |
第二種製造販売業<br>(管理医療機器) | • 薬剤師<br>• 大学等で物理学、化学、生物学、工学、情報学等の科目を修めて卒業した者<br>• 医師、歯科医師、獣医師<br>• 大学院において医薬品等の安全確保に関する専門課程を修了した者<br>• 旧制中学、高校、専門学校で物理学、化学、生物学、工学、情報学等の課程を修了した者 |
第三種製造販売業<br>(一般医療機器) | • 薬剤師<br>• 大学等で自然科学に関する科目を修めて卒業した者<br>• 医師、歯科医師、獣医師<br>• 旧制中学、高校、専門学校で自然科学に関する科目を修めた者<br>• 高等学校卒業者等であって、医薬品等の品質管理又は製造販売後安全管理に関する業務に3年以上従事した者 |
4.3.3 実務経験・従事経験要件
安全管理責任者には、学歴に加えて以下の実務経験が必要です:
- 第一種製造販売業
- 医薬品等の製造販売後安全管理に関する業務に3年以上従事した経験
- 医療機器の製造販売に係る安全管理に関する業務に3年以上従事した経験
- 安全確保業務に関する教育訓練を修了していること
- 第二種製造販売業
- 医薬品等の製造販売後安全管理に関する業務に3年以上従事した経験
- 医療機器の製造販売に係る安全管理に関する業務に3年以上従事した経験
- 安全確保業務に関する教育訓練を修了していること
- 第三種製造販売業
- 医薬品等の製造販売後安全管理に関する業務に1年以上従事した経験
- 医療機器の製造販売に係る安全管理に関する業務に1年以上従事した経験
- 安全確保業務に関する教育訓練を修了していること
4.3.4 兼任の可否
安全管理責任者の兼任については、以下の規定があります:
兼任可能な役職 | 兼任の条件 |
---|---|
品質保証責任者 | • 業務に支障がない場合<br>• 安全管理業務と品質保証業務を適切に行うことができる場合 |
他社の安全管理責任者 | • 原則として不可<br>• 例外:グループ会社や取扱い製品が少数で業務に支障がない場合 |
総括製造販売責任者 | • 小規模企業(取扱い製品が少ない等)で安全管理業務に支障がない場合 |
その他業務 | • 安全管理業務に支障をきたさない範囲で他の業務との兼任は可能 |
安全管理責任者の兼任について注意すべき点:
- 業務の独立性
- 安全管理業務と品質保証業務は相互に牽制する関係であるため、兼任する場合は業務の適正性を確保する仕組みが必要
- 兼任のリスク
- 不具合発生時など緊急事態への対応が遅れる可能性
- 業務負荷過多による安全管理業務の質の低下
- 小規模企業での対応
- 少人数でのスタートアップでは、条件付きで兼任が認められる場合がある
- その場合でも、適切な業務分担と手順書の整備が必要
- 監査時の注意点
- 兼任体制の場合は、業務の適切な遂行が可能であることを示す資料の準備が必要
- 業務記録の明確な区分管理が求められる
安全管理責任者は市販後の医療機器の安全管理を担う重要なポジションであり、特に高度管理医療機器を扱う企業では、十分な経験と専門知識を持った人材を配置することが推奨されます。スタートアップ企業では、リソースの制約から兼任体制を取る場合が多いですが、安全管理業務の質を確保するための仕組み作りが重要です。