Part11とデータインテグリティを混同していないか

Part11とデータインテグリティを混同していないか

昨今、製薬企業においては、データインテグリティ対応に余念がない。
しかしながら、多くの企業の事例発表などを見ていると、データインテグリティ対応とPart11対応を混同しているように思える。
また、データインテグリティに関する書籍やセミナーを見ても同様である。
データインテグリティ対応では、分析機器などのコンピュータ化システムにおいて、セキュリティと監査証跡機能を付ければ良いと思っているケースがほとんどである。

これは大きな間違いである。
データインテグリティ(つまり記録の信頼性)を脅かす事象のうち、80%まではヒューマンエラーなのである。

ここで、読者に質問である。

故意に改ざんされたデータと、ヒューマンエラーによって改ざんされたデータでは、どちらの方が患者の安全性にとって重大であろうか?

答えは、どちらも同じである。

データインテグリティ対応で最も先に手を付けなければならないのは、ヒューマンエラー発生の低減である。
ヒューマンエラーには下記のものがあげられる。

・転記ミス
・計算ミス
・入力ミス
・試薬ミス(種類、有効期限、調整、保管状態など)
・手順ミス(勘違い、思い込みなど)

分析機器などのコンピュータ化システムに、セキュリティや監査証跡機能を付けたとしても、ヒューマンエラーは防げない。
ヒューマンエラーは、一定の確率で必ず起きる。そもそも間違わない人間なんていないのである。
ヒューマンエラーを防ぐためには、ダブルチェックなどの仕組み(QMS)が必要になる。

データインテグリティは紙記録と電子記録に等しく適用される

また、データインテグリティ対応では、電子記録に限ってはならない。

ここで、再度読者に質問である。
電子の記録の改ざんと、紙の記録の改ざんでは、どちらの方が患者の安全性にとって重大であろうか?

答えは、どちらも同じである。

製造所では、製造記録などは依然として紙媒体を使用して作成していることが多い。紙媒体による記録のデータインテグリティ対応にも力を入れなければならない。

IT化によって防げるヒューマンエラー

もちろん、記録を電子化することによって、ヒューマンエラーを防ぐことが可能な事象もある。
例えば、電子天秤などのスタンドアローンの分析機器を、ネットワークを通じてLIMSに接続するなどだ。
これにより、秤量値などの分析データは自動転送され、転記ミスや入力ミスは防げる。
また、バリデートされたシステムであれば、計算ミスも防ぐことができるだろう。
さらに、上書き、変更、削除といった事象から、データを保護することもできるだろう。
ただし、これらは分析の実施方法や解析プログラム、パラメータ等が適切であり、また採取した生データが正しいという前提である。
そもそも、生データを生成する過程において、ヒューマンエラーがあれば、電子化では防ぐことは出来ない。

Part11対応は限定的なデータインテグリティ対応

Part11の目的は、事故か故意かに関わらず、

  1. 容易に電子記録の改ざんを出来ないようにする(セキュリティ)
  2. 改ざんされたら分かるようにする(監査証跡)

である。

Part11では、上述したヒューマンエラー対策はスコープではない。
また、Part11は、対象を電子記録に限っている。 つまり、Part11対応とデータインテグリティ対応は、異なるということである。

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