
品質とは
品質とは一体何であろうかという問いから考察を始めたい。例えばブランド物のバッグを15万円で購入し、家に帰って見るとバックルがわずかに汚れていたとする。読者はどう思うだろうか。おそらく「品質が悪い」と感じるはずである。一方、駅のキオスクで300円の紙袋を買い、同じ程度の汚れがあったとしても、「品質が悪い」とは思わないだろう。
この差は何か。それは価格の違いである。つまり、価格が高いものには高いなりの品質を読者は求め、安いものには安いなりの品質で満足するということである。すなわち品質とは、「対価に見合った顧客の要求基準」と定義できる。このことから分かるように、品質は生産者側やメーカー側が一方的に決められるものではない。品質を決めるのはあくまでも消費者、顧客であることを認識する必要がある。
しかしながら、医薬品や医療機器は「高いからこれくらいの品質、安いからこれくらいの品質」というわけにはいかない。医薬品は薬価で定められた価格以外にも、クオリティ・オブ・ライフ(QOL)、すなわち生活の質の向上を目指すという顧客の要求があり、それはいわば青天井であると言える。

品質保証とは
品質が高いということと品質保証することは異なる概念である。読者の中には品質を高めれば品質が保証できていると考える人も多いと思われるが、それは誤解である。
品質保証とは「あらかじめ定めた品質や仕様の通り継続的に生産できること」を意味する。例えば、製造してみたら美しいバッグができたとしても、時折ほころびや傷がついているような状態では品質が保証できているとは言えない。何度作っても、何十個作っても、1年後も3年後も5年後も同じ仕様で同じ品質で製造が継続できること、これが品質保証なのである。
ここで注意すべき点は、キオスクの紙袋を製造し続けていても、いずれルイ・ヴィトンのバッグになることはないということである。
これが品質保証の要点であり、品質や要求仕様を上げていくことが品質保証ではない。
あくまでも同じ仕様で、同じ品質で製造し続けることを品質保証と呼ぶのである。
国際的な品質の定義
これまで概念的な説明をしてきたが、国際的な品質管理の基準であるISO9000では、品質について以下のように定義している。
「本来備わっている特性の集まりが要求事項を満たす程度」
これが国際規格における品質の定義である。例えば、血圧計を製造する場合、その血圧計の品質が良いか悪いかは、顧客の要求事項を満たしているかどうかで決まる。つまり、品質が良いとは、当該製品が固有の本質的な一連の特性が要求事項を満たしている状態のことを指す。「使い勝手が良い」「悪い」といった点は、品質の善し悪しとは必ずしも直結しない。あくまでも要求事項を満たしていれば、それは良い品質の製品と見なされるのである。
読者は「品質とは何か」と問われれば、「性能が良いこと」「機能性が良いこと」「見た目が良いこと」などと考えるかもしれない。しかし国際規格の定義はそうではなく、あくまでも顧客の要求を満たしたものが良い品質の製品であると定義されている。
