監査員の力量について

監査員の役割と責任

監査員は単なる「検査官」ではない。法規制や基準への適合性を評価するだけでなく、組織のプロセスや品質システムの有効性を確認し、潜在的なリスクを特定する役割を担っている。特に医薬品・医療機器業界では、GMP(医薬品製造品質管理基準)やQMS(品質マネジメントシステム)といった厳格な基準への適合が求められるため、監査員の判断が企業の品質保証活動全体に大きな影響を与える。

監査員に求められる基本的な力量

1. 専門知識と実務経験

監査員は以下の分野における深い知識が求められる。

  • 関連法規制(医薬品医療機器等法、GMP/QMS省令など)
  • 業界ガイドライン(ICH、ISO、PIC/Sなど)
  • 製品や製造プロセスに関する技術的知識
  • リスクマネジメントの原則

これらの知識は、監査対象の適合性を適切に評価するための基盤となる。
重要なのは、監査対象領域における実務経験である。例えば、製造を監査する監査員は製造の経験が必要であり、試験検査(QC)を監査する監査員は試験検査の経験が必要である。実務経験があることで、プロセスの詳細や潜在的なリスクポイントを理解し、形式的ではなく本質的な問題点を指摘することができる。書類上は適合しているように見えても、実務経験に基づいた「違和感」を察知できることが、優れた監査員の条件である。

2. 監査技術

知識だけでは優れた監査員にはなれない。効果的な監査を実施するための技術も必要である。

  • インタビュー技術(適切な質問の組み立て方)
  • 記録のレビュー方法(重要な情報の抽出)
  • サンプリング手法(適切なサンプル数と選定基準)
  • 観察スキル(現場での異常や不整合の発見)
  • 分析的思考(情報の関連付けと全体像の把握)

3. コミュニケーション能力

監査は「対話」である。被監査側との適切なコミュニケーションなしには、真の問題点を特定することができない:

  • 明確かつ簡潔な質問の提示
  • 積極的な傾聴
  • 非言語コミュニケーションの読み取り
  • 指摘事項の建設的な伝達

4. 倫理的資質

監査員は高い倫理観を持ち、以下の原則に基づいて行動する必要がある。

  • 独立性と公平性
  • 機密保持
  • 誠実さと専門家としての懐疑心
  • 証拠に基づいた判断

監査員の力量向上のためのポイント

さまざまな製造所、製品、プロセスの監査を経験すると、監査員の視野が広がり判断力が向上する。できるだけ多くの異なる監査経験を積むことが望ましい。

「生え抜き」と転職経験者の違い

「生え抜き」の人にとっては、監査員は難しい。なぜならば、自社の品質システムを「当たり前」と考えてしまい、潜在するリスクに気付かないためである。
一方、転職経験者は少なくとも2つの品質システムを比較できるため、「当たり前」とされている慣行の中に潜むリスクに気づきやすい利点がある。

外部専門家の強み

FDA査察官やコンサルタントが効果的な監査や査察を行えるのは、多くの企業の品質システム、逸脱事例、CAPAなどを見てきた経験があるからである。様々な事例を知ることで「良い例」と「悪い例」を比較でき、問題点や改善点を的確に指摘できるのである。

チーム編成と力量向上

複数の企業の品質システムを知ると、「正解は一つではない」という視点が生まれ、より本質的な品質リスク評価ができるようになる。そのため、監査チームには様々な経歴を持つ人材を配置すると効果的である。

「生え抜き」監査員の力量向上法

「生え抜き」でも監査能力を高める効果的な方法がある。それは供給者監査を積極的に行うことである。別の企業の品質システムを見ることで視野が広がり、自社システムを客観的に評価できるようになる。
このとき重要なのは、品質の悪い供給者だけでなく、品質の良い供給者も監査し、そのベストプラクティスから学ぶことである。優れた品質システムを持つ供給者からは、自社に取り入れるべき改善のヒントが得られる。
供給者監査を「学びの機会」として活用することで、生え抜きの監査員でも視野と能力を大きく向上させることができるのである。

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