ブラジルの医療機器薬事制度

ブラジルは南米最大の医療機器市場を有しており、その規制制度は世界的に見ても独自の特徴を持っている。

規制当局:ANVISA

ブラジルの医療機器規制を担当する中央機関は「国家衛生監督庁(Agência Nacional de Vigilância Sanitária、通称ANVISA)」である。ANVISAは1999年に設立され、医薬品、医療機器、化粧品、食品、タバコなどの規制を担当している。日本の厚生労働省や医薬品医療機器総合機構(PMDA)に相当する機関と理解してよい。

医療機器の分類

ブラジルでは医療機器をリスクに基づいて4つのクラスに分類している:

  • クラスI:低リスク(例:包帯、医療用ベッド)
  • クラスII:中低リスク(例:注射針、聴診器)
  • クラスIII:中高リスク(例:人工呼吸器、体内埋め込み式カテーテル)
  • クラスIV:高リスク(例:ペースメーカー、人工心臓弁)

この分類は欧州医療機器規則(MDR)No. 2017/745の付属書VIIIの分類規則に基づいており、国際的な整合性を一定程度有している。

登録プロセス

ブラジルで医療機器を販売するためには、ANVISA登録(カダストロまたはレジストロ)が必要である。

カダストロ(Cadastro)とレジストロ(Registro)

ブラジルでは登録形式が2種類存在する:

  1. カダストロ:クラスIおよびクラスIIの低リスク機器向けの簡易登録制度
  2. レジストロ:クラスIIIおよびクラスIVの高リスク機器向けの完全登録制度

カダストロは審査プロセスが比較的シンプルであり、通常は60〜90日程度で完了する。また、クラスIとIIのカダストロ登録は期限がない。一方、レジストロはより詳細な技術文書と臨床データを要求され、審査期間も6ヶ月から1年以上かかることがある。クラスIIIとIVのレジストロ登録は10年間有効である。

ブラジル特有の要件

ブラジル代理人(Brazilian Legal Representative)

外国製造業者はブラジル国内に法的代理人を設置することが義務付けられている。この代理人はANVISAとの連絡窓口となり、製品登録から市販後監視まで、あらゆる規制関連業務を担当する。

INMETRO認証

電気医療機器の多くは、ブラジル国立度量衡・標準化・工業品質研究所(INMETRO)の認証も取得する必要がある。これは電気安全と電磁両立性(EMC)に関する要件を満たすことを証明するものである。

INMETRO認証が必要な医療機器には以下が含まれる:

  • 電気手術装置
  • 人工呼吸器
  • 電気麻酔器
  • インフュージョンポンプ
  • 除細動器
  • 患者モニタリング機器
  • 血液透析装置
  • 医療用レーザー装置
  • 超音波診断装置
  • X線診断装置
  • MRI装置
  • インプラント可能な電子医療機器

また、医療機器以外でもINMETRO認証が必要な製品には、家電製品(冷蔵庫、洗濯機、エアコンなど)、情報技術機器、照明器具、電気工具、玩具、個人用保護具などがある。

ANATEL認証

一部の無線通信機能を有する医療機器は、ブラジル国家通信庁(ANATEL)の認証も必要となる場合がある。これは電波使用に関する要件を満たすことを証明するものである。

GMP要件

製造施設は「医療機器の適正製造基準(GMP)」に準拠していることを証明しなければならない。特にクラスIIIとIVのデバイスには、レジストロ登録前にブラジルGMP(B-GMP)認証が必要である。外国製造業者の場合、ANVISAによる査察または国際的な相互認証協定(MOU)に基づく証明が必要となる。

市販後監視

ブラジルでは市販後監視システムが厳格に運用されている。医療機器の不具合や有害事象は、製造業者からANVISAへ報告する義務がある。重大な問題がある場合、ANVISAは製品のリコールを命じることもある。

最近の動向

ANVISAは近年、国際医療機器規制当局フォーラム(IMDRF)との協調を強化している。2016年にMDSAP(医療機器単一監査プログラム)に正式加盟した背景には、特に高リスククラスの医療機器の承認申請処理に時間がかかっていた課題がある。MDSAPへの加盟によって低リスク機器の審査プロセスを軽減し、限られた規制リソースを高リスク機器の審査に集中させる狙いがあった。
ただし、他の加盟国とは異なり、ANVISAはMDSAP監査報告書を完全に受け入れているわけではなく、追加の要件や独自の査察を要求する場合がある。このようなパイロット参加を通じて、国際的な規制調和への取り組みは積極的に進めている。
また、COVID-19パンデミック以降、遠隔医療機器やデジタルヘルスソリューションに関する規制枠組みの整備も進められている。

日本企業にとっての留意点

日本企業がブラジル市場に参入する際の主な課題として以下が挙げられる:

  1. 言語障壁:申請書類は全てポルトガル語で提出する必要がある
  2. 時間的制約:特にレジストロ登録には長期間を要する
  3. 認証コスト:登録費用に加え、代理人費用やINMETRO認証費用などがかかる
  4. 現地製造優遇政策:ブラジル国内製造品が優遇される傾向がある
  5. 市販後の対応:厳格な市販後監視システムへの対応が必要

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