データインテグリティは不正防止ではない
データインテグリティの欠如は、患者の生命に直接的な影響を与える可能性がある。例えば、抗がん剤の製造に関わるデータの一部が欠損または信頼性を失った場合、製品の出荷停止を余儀なくされ、患者の治療に重大な支障をきたす。これは患者にとって死刑宣告に等しい事態となりうる。
さらに、データインテグリティの問題は、企業の存続にも関わる重大な影響をもたらす。規制当局からの信頼喪失は、製品の承認取り消しや、新薬の承認申請の却下につながる可能性がある。
データインテグリティが失われた際のインパクト
経済的な影響も甚大であり、製品回収費用、在庫の廃棄、システムの改修費用など、直接的なコストに加え、売上の減少、市場シェアの低下、株価の下落など、間接的な損失も発生する。
また、一度失った信頼を回復することは極めて困難である。
データインテグリティの問題は、当該企業だけでなく、製薬業界全体の信頼性にも影響を及ぼす可能性がある。そのため、全ての業務プロセスにおいてデータインテグリティを確保することが不可欠である。
対応と復旧に必要な措置
データインテグリティを脅かす事象の約80%はヒューマンエラーに起因している。これは多くの人が誤解している重要な点である。
データインテグリティは不正対策ではなく、むしろ日常的に発生するヒューマンエラーへの対策が中心となる。 ヒューマンエラーには、転記ミス、入力ミス、計算ミス、うっかりミス、思い込み、勘違いなど、様々な形態がある。これらは意図的な不正ではないが、患者の安全性や製品品質に重大な影響を及ぼす可能性がある。不正による改ざんであれ、ヒューマンエラーによる変更であれ、患者の安全性にとっては同等の重大性を持つ。 特に注目すべきは、不正を行うのは主に経営者や責任者であり、一般の従業員ではないという点である。従業員に求められるのは不正の防止ではなく、ヒューマンエラーの防止である。この認識の転換が、効果的なデータインテグリティ対策の第一歩となる。