ユーザビリティの本質
一般的にユーザビリティとは、ソフトウェアなどの操作性や使いやすさを示す言葉として認識されている。多くの場合、なるべく簡単で、迷わず、ストレスを感じずに操作できることを「ユーザビリティが良い」あるいは「ユーザビリティが高い」と表現する。
しかしながら、ユーザビリティに関する国際規格のISO 9241-11では「ある製品を、特定の利用者が、特定の目的を達成しようとするにあたって、特定の状況で、いかに効果的に、効率的に、満足できるように使えるかの度合い」と定義されており、一般的な「使いやすさ」とは異なる意味を持つことに注意が必要である。
さらに、IEC62366-1:2015における定義では「使いやすくして、またそれによって意図する使用環境において有効性、効率およびユーザの満足度を確立するユーザインタフェースの特性」とされており、医療機器規制においては「有効性」「効率」が重要な要素として位置づけられている。
医療機器におけるユーザビリティの特殊性
医療機器のユーザビリティエンジニアリングにおいて最も重要なことは、使用エラーのない「安全」な医療機器を実現することである。確かにユーザビリティには「使いやすさ」「ユーザの満足度」「見栄え」といった要素も含まれるが、医療機器の設計開発においては、これらは二次的な要素となる。
興味深いことに、安全性を確保するためにあえて使いにくく設計することもユーザビリティエンジニアリングの一環である。例えば、使い捨てライターのノックが重く設計されているのは、かばんの中で自然に火がついてしまうことや、子供のいたずらによる火災を防ぐための配慮である。医療機器においても、同様の考え方が適用される場合がある。
わざと使いにくくすることもユーザビリティ
実践的な取り組み
ユーザビリティエンジニアリングの対象は、すべての医療機器に及ぶ。ME機器に限定されることなく、Class I機器も除外されない。また、ソフトウェアインターフェースだけでなく、附属資料を含むすべてのインターフェースが対象となる。
インターフェースは人間の感覚を通じて認識されるものすべてを含んでおり、視覚的要素としてはLCD(ディスプレイ)、ラベル、色彩、取扱説明書、教育用資料が該当する。聴覚的要素としてはアラーム音が、触覚的要素としてはボタンや形状が含まれる。
取扱説明書やその他の付属文書などの安全のための情報は、ユーザインタフェースの重要な一部である。これらは初期段階から考慮され、ユーザビリティエンジニアリングプロセスで扱われることが望ましい。また、トレーニング資料の開発にも活用されるべきである。
使用環境とユーザーへの配慮
使用環境の多様性を考慮することも極めて重要である。例えば、AEDは群衆に囲まれた緊急時に、取扱説明書を読む時間もない状況で使用されることがある。このような場合、効率性は安全性に直結する。
また、救急車内で使用される心電図計など、移動中の使用を想定した設計も必要となる。
1秒を争うAEDは効率が安全性に影響する
ISO/IEC共通ガイド51に基づけば「合理的に予見可能な誤使用」を検討する際には、使用者の属性を特定することが求められる。身体障害者、色覚特性を持つ人、高齢者、子供、妊産婦、言語の異なる外国人など、様々な使用者を想定し、それぞれがタスクを完遂できるかを検討する必要がある。
このように、医療機器のユーザビリティエンジニアリングは、単なる使いやすさの追求ではなく、多様な使用環境と使用者を想定した包括的な安全設計のアプローチなのである。それは使用エラーのない安全な医療機器を実現するための、体系的な分析手法として確立されている。