医療機器不足報告の動向
世界各国では、様々な要因が複合的に作用し、医療機器の供給不足が生じており、重要な課題となっている。特に新型コロナウイルスパンデミックを契機に、医療機器のサプライチェーンの脆弱性が顕在化したと言える。
各国の規制当局は、透明性の確保と安定供給のため、さまざまな取り組みを進めている。
以下に、主要な国や地域の動向をまとめる。
アメリカ合衆国
FDAが医療機器不足報告制度(506J報告)を導入しており、特に「重要機器(Critical Device)」と「COVID-19により需要が増加した機器」の2種類を重点的にモニタリングしている。
FDAは、医療機器の供給不足リストを公開し、透明性の確保に努めている。不足の原因として、製造上の問題、品質の課題、自然災害、地政学的な問題、物流の遅延、公衆衛生上の懸念など、多岐にわたる要因が指摘されている。2024年7月時点で、約140種類の医療機器が不足していると報告されている。
欧州連合(EU)
欧州では、2023年以降、医療機器の供給不足が深刻化し、欧州医薬品庁(EMA)が各国と情報を共有している。最近の調査によると、EUでは患者の55%が医薬品不足を、45%が医療機器不足を経験しており、深刻な状況が続いている。特に配送上の問題が不足の約8%を占めており、供給安定化のための対策が進められている。
医療機器規則(MDR)および体外診断用医療機器規則(IVDR)に基づき、製造業者に対して公衆衛生への脅威が確認された場合、2日以内に行政当局への報告を義務付けている。
また、2024年5月には、製造業者に重要な医療機器の潜在的な不足を事前に通知することを義務付ける新しい規則が採択され、EUDAMEDデータベースの段階的な導入も進められている。
カナダ
カナダでは、ヘルスカナダが医療機器の供給不足や供給停止に関するガイダンスを提供している。特に小児医療における医療機器の供給状況が注目され、医療関係者向けに包括的な情報提供が行われている。2022年3月からは、新しい報告要件が施行され、製造業者や輸入業者は特定の医療機器の不足や中止を認識してから5営業日以内に電子報告フォームを通じて初期報告を行い、情報の変更や更新があった場合は2営業日以内に報告することが義務付けられている。
日本
日本では、医薬品医療機器総合機構(PMDA)を通じて不具合報告システムが確立されており、供給不足に関する報告制度では、予兆、実際の供給不足、状況変化、回復の4つのステータスについて報告することが求められている。また、医療機器の不具合に関する報告は、因果関係が不明な場合でも製造販売業者等および医薬関係者からの報告が義務付けられている。現時点で、医療機器不足報告に関する具体的な新規制の動きは確認されていないが、医薬品の供給不足に関しては対策が講じられており、今後医療機器にも同様の対応が検討される可能性がある。
フランス
フランスでは、医療物資の戦略的備蓄が進められている。フランス公衆衛生庁は、重大な公衆衛生の脅威から国民を守るため、医療物資の購入、製造、輸入、保管、配給などを行っている。2020年8月の報告によれば、国の戦略的備蓄として、約38,000個のコンテナ分の医療物資が保管されており、全国各地に分散して配置されている。これにより、供給不足時の迅速な対応が可能となっている。
オーストラリア
オーストラリアでは、医療機器の供給不足に関する具体的な報告制度は確認されていないが、薬品・医薬品行政局(TGA)が医療機器の規制承認プロセスを管理している。TGAは、医療機器の品質、安全性、有効性を確保するためのガイドラインを提供しており、製造業者や輸入業者はこれらの規制に従う必要がある。また、医療機器の市販後監視報告プロセスも整備されており、有害事象の報告やリコール情報の提出が求められている。
世界的な動向と企業への影響
医療機器の世界貿易は過去30年間で7倍に増加し、2022年には7,000億ドルに達しており、その3分の1が国際取引となっている。各国の規制当局は、不足を防ぐための新たな措置を導入し、透明性の向上と医療機器へのアクセス改善に取り組んでいる。特に、COVID-19パンデミック以降、医療機器の供給チェーンの脆弱性への認識が高まり、より強固な監視・報告体制の構築が進められている。グローバルに事業を展開する企業は、各国の規制動向に注意を払い、適切な報告プロセスを確立することが重要である。
このように、各国の規制当局は医療機器の供給不足に対応し、供給安定を目指すための対策を強化している。
医療機器不足の主な原因
各国の医療機器不足の主な原因は以下のようにまとめられる。
1. 新型コロナウイルスパンデミックによる需要急増
– 人工呼吸器やパルスオキシメーター等の需要が世界的に急増し、供給が追いつかなくなった。
2. サプライチェーンの混乱
– 半導体不足や原材料の調達難により、医療機器の生産に支障が出ている。
– 国際物流の混乱により、部品や完成品の輸送に遅延が生じている。
3. 国内生産能力の不足
– 多くの国で医療機器の国内生産比率が低く、輸入に依存している状況がある。例えば日本では人工呼吸器の国内生産比率が42%程度にとどまっている。
4. 政府の補助金政策による需要増
– 各国政府が医療機関向けに補助金を支給し、医療機器の購入を促進したことで需要が急増した。
5. 労働力不足
– 物流業界の人手不足により、医療機器の輸送・配送に遅延が生じている。
6. 特定の原材料や部品への依存
– 一部の重要な原材料や部品の供給元が限られており、その調達が困難になっている。
7. 在庫管理の課題
– 医療機関や流通業者の在庫管理体制が十分でなく、需要の急増に対応できていない。責任がより明確になることが予想される。