医療機器規制のマネジメントレビューとは?手順書作成方法を解説!

QMS省令やISO13485、FDA QSR等の各国の医療機器規制要件は品質マネジメントシステムの一環として「マネジメントレビュー」を実施することを求めています。

上記の規制要件ではざっくりと、

  • 手順書を作成する
  • マネジメントレビューへのインプットを作成する
  • マネジメントレビューを実施する
  • マネジメントレビューからのアウトプットを得る
  • 記録を作成する

ということを要求しています。

要求がざっくりしすぎていて結局何をすればよいのか分からない!という方はぜひ本記事の内容をご参考にしていただければと思います。

本記事では、

  • マネジメントレビューとは何か
  • どんな手順書を作成すれば良いのか
  • マネジメントレビューでは何をすればよいのか
  • マネジメントレビューの記録はどんなものを残せばよいのか

ということについて解説します。

マネジメントレビューって何?

医療機器規制要件以外にも、ISO9001(製品・サービスの品質マネジメントシステム規格)やISO14001(環境マネジメントシステム)、ISO27001(情報セキュリティマネジメントシステム)などでも実施が要求されていますので、「マネジメントレビュー」の存在についてご存じの方も多いでしょう。

ここでは医療機器規制におけるマネジメントレビューに特化して解説いたします。

医療機器規制要件におけるマネジメントレビューとは、医療機器製造販売業者や製造業者(以下、製造販売業者等)の品質マネジメントシステム(以下、QMS)が妥当であるか、有効性があるのかについて、製造販売業者等のトップマネジメント(QMS省令では「管理監督者」)がレビュする活動のことを指します。

トップマネジメントによるレビュにおいては、QMSの改善や変更の必要性を評価します。

QMS省令ではマネジメントレビューを「管理監督者照査」と呼びます。

QMS省令第18条にマネジメントレビュー(=管理監督者照査)に係る事項が定められています。

第18条 管理監督者照査

1. 製造販売業者等は、品質管理監督システムについて、その適切性、妥当性および実効性の維持を確認するための照査(品質管理監督システム(品質方針および品質目標を含む。)の改善または変更の必要性の評価を含む。以下「管理監督者照査」という。)に係る手順を文書化しなければならない。

2. 管理監督者は、前項の規定により文書化した手順に従って、あらかじめ定めた間隔で管理監督者照査を実施しなければならない。

3. 製造販売業者等は、管理監督者照査の結果の記録を作成し、これを保管しなければならない

QMS省令 第18条

ここで求められていることは、

  1. マネジメントレビューに関する手順書を作成すること
  2. あらかじめ定めた間隔でマネジメントレビューを実施すること
  3. マネジメントレビューの記録を作成し、保管すること

です。 それぞれ具体的に何をすればよいのか、以下で見ていきましょう。

どんな手順書を作成すれば良いの?

手順書とは、業務を実施するための手順を記した文書のことです。

当社では守るべきルールを規定した「規程」と誰が・いつ・何をするのかという実施手順を規定した「手順書」を作成することをお勧めしています。

マネジメントレビューの規程(=ルールブック)には以下のような事項を規定します:

  • マネジメントレビューの開催時期(例:何月に行うのか?)
  • マネジメントレビューの開催頻度(例:1年に何回行うのか?)
  • 参加者(必須参加者、任意参加者)
  • 開催要件(必須参加者を含み、何人以上の参加で成立とするのか)
  • 事務局の設置に関する事項
  • マネジメントレビューへのインプットに関する事項(どの部署がどんな資料を作成するのか)
  • マネジメントレビューからのアウトプットに関する事項(どのような事項をアウトプットとして出すのか)
  • 欠席者に対する措置に係る事項
  • 記録の作成・保管に係る事項
  • マネジメントレビュー後の措置に係る事項(CAPAの実施要否等)
  • 臨時マネジメントレビューを開催する場合の要件

上記のような、マネジメントレビューを実施するにあたって必要なルールを規定します。

QMS省令などの要求事項に比べて詳細ですよね。

実際に、これくらいルールを定めておかないとマネジメントレビューを執り行うのは難しいです。

そして「手順書」では上記のルールを守りつつ「誰が・いつ・何を」実施するかを規定します。

  • マネジメントレビューの開催準備の手続き(日程調整・資料の作成等)
  • マネジメントレビューの開催時の成立確認手続き
  • マネジメントレビューの実施
  • マネジメントレビューの記録(議事録等)の作成・承認
  • マネジメントレビュー欠席者に対する措置
  • CAPAが必要な場合の手続き
  • 記録の保管

マネジメントレビューに係る記録様式なども定義しておき、手順の中でいつその様式を使用するかを定めておくと良いでしょう。

自分で作るのは難しい!という場合には、手順書のひな形も販売されています。

以下に、本記事の著者自身が内容確認済みの推奨商品をご紹介いたします。

QMS省令に対応した管理監督者照査の手順書の参考例が知りたい方には以下のひな形がお勧めです。

ISO13485:2016に対応したマネジメントレビュの手順書の参考例が知りたい方には以下のひな形がお勧めです。

規制要件の遵守のためにも、まずはひな形から入って、自社に合ったシステムにアレンジしていくのも良いでしょう。

マネジメントレビューでは何をすればよいのか

作成した規程・手順書に従いマネジメントレビューの開催準備、実施、記録の作成等の作業を進めていきます。

マネジメントレビューへのインプット

医療機器規制においては、マネジメントレビューでトップマネジメントに報告すべき事項が定められています。

例えば、QMS省令では第19条に、マネジメントレビューで報告すべき事項が12個規定されています。

第19条 管理監督者照査に係る工程入力情報

管理監督者は、次に掲げる情報を管理監督者照査に用いる工程入力情報としなければならない。

1. 製品受領者および供給者からの意見

2. 苦情の処理

3. 厚生労働大臣、都道府県知事または医薬品、医療機器等の品質、有効性および安全性の確保等に関する法律施行令(昭和36年政令第11号。以下「令」という。) 第37条の23に規定する医療機器等製造販売業許可権者への通知

4. 監査

5. 工程の監視および測定

6. 製品(限定一般医療機器に係る製品を除く。)の監視および測定

7. 是正措置(不適合(この省令に規定する要求事項等に適合しないことをいう。以下同じ。)の再発を防止するために不適合の原因を除去する措置をいう。以下同じ。)

8. 予防措置(起こり得る不適合の発生を防止するために、その原因を除去する措置をいう。以下同じ。)

9. 従前の管理監督者照査の結果を受けてとった措置

10. 品質管理監督システムに影響を及ぼすおそれのある変更

11. 部門、構成員等からの改善のための提案

12. 前回の管理監督者照査の後において、新たに制定され、または改正された法令の規定等

QMS省令 第19条

上記12個の情報について、前回のマネジメントレビューの実施以降に発生・収集したものをまとめ上げ、トップマネジメントに報告します。

ただし、規定されている情報について、具体的な一つ一つの情報を報告するわけではないことに注意が必要です。

QMS省令の逐条解説である通知(薬生監麻発0326第4号)にも、「情報を集約したものであること」と説明書きがなされています。

マネジメントレビューはQMSの妥当性・有効性を照査することが目的です。

重要なことは、これらの情報から、QMSの改善や変更の必要性の有無を判断することです。

具体例

例えば2つ目の「苦情情報」や5つ目の「工程の監視及び測定」、6つ目の「製品の監視および測定」などは日々の活動の中で発生するデータです。

これらの得られたデータをQMS省令「第61条データの分析」に則って統計的手法等を用いて分析し、QMSの妥当性・有効性を測るための情報へと変換します。

例えば「工程の監視及び測定」について考えてみましょう。

工程における日々のデータを取得・分析することで、

  • 工程管理パラメータは管理幅内に収まっているのか、逸脱傾向にあるのか?
  • 不適合品率は低下しているか?上昇しているか?

等の情報が得られます。

そしてなぜそのような状況になっているのかについて考察することで、

  • 設備が古いために工程管理パラメータが逸脱方向に振れつつある

などの結論が得られます。

得られた情報および結論をマネジメントレビューで報告し、マネジメントに決断(QMSの改善・変更のためのヒト・モノ・カネの配分等の必要性判断)を行ってもらいます。

このケースですと、「QMSの改善のために設備を一新しなければならない。そのための予算措置をする必要がある」などの決断を得る必要がありますね。

他の規定とのつながり

ちなみに、この「QMSの改善のために設備を一新しなければならない。そのための予算措置をする必要がある」といった決断をトップマネジメントが行い、実行に移すことはQMS省令「第10条 管理監督者の関与」の第1条第5号の規定や「第21条 資源の確保」を遵守した行動になります。

第10条 管理監督者の関与

管理監督者は、品質管理監督システムの確立および実施並びにその実効性の維持に責任をもって関与していることを、次に掲げる業務(限定第3種医療機器製造販売業者の管理監督者にあっては、第1号および第5号に掲げる業務に限る。)を行うことによって実証しなければならない。

1. 法令の規定等および製品受領者が要求する事項(以下「製品受領者要求事項」という。)(限定第3種医療機器製造販売業者の管理監督者にあっては、法令の規定等に限る。)に適合することの重要性を、全ての施設に周知すること。

2. 品質方針を定めること。

3. 品質目標が定められているようにすること。

4. 第18条第1項に規定する照査を実施すること。

5. 資源が利用できる体制を確保すること。

QMS省令 第10条

第21条 資源の確保

製造販売業者等は、次に掲げる業務に必要な資源を明確にし、確保しなければならない。

1. 品質管理監督システムを実施するとともに、その実効性を維持すること。

2. 製品および品質管理監督システムを法令の規定等および製品受領者要求事項(限定第3種医療機器製造販売業者にあっては、法令の規定等に限る。)に適合させること。

QMS省令 第21条

このように、QMS省令であれ、ISO9001であれ品質マネジメントシステムにおける要求事項はそれぞれが有機的なつながりを持っています。

マネジメントレビュからのアウトプット

「マネジメントレビュへのインプット」ではQMS省令第19条に規定された12個の情報を、QMSの妥当性・有効性が判断できる情報に変換してから、マネジメントレビュの場でトップマネジメントに報告しました。

トップマネジメントはその情報を受け、QMSの改善の必要性、製品の改善の必要性、新しく制定された法令への対応の必要性、資源の割り当ての必要性等を検討・決定します。

上記の、トップマネジメントがインプット情報を受けて判断すべき事項はQMS省令「第20条 管理監督者照査に係る工程出力情報」に規定されています。

第20条 管理監督者照査に係る工程出力情報

製造販売業者等は、管理監督者照査に用いる工程入力情報および管理監督者照査から得られた次に掲げる事項(限定一般医療機器に係る製品にあっては、第2号に掲げる事項を除く。)を記録するとともに、所要の措置をとらなければならない。

1. 品質管理監督システムおよび工程の適切性、妥当性および実効性の維持に必要な改善

2. 製品受領者要求事項に関連した製品の改善

3. 前回の管理監督者照査の後において、新たに制定され、または改正された法令の規定等への対応

4. 次条に規定する必要な資源

QMS省令 第20条

マネジメントレビューの記録はどんなものを残せばよいの?

マネジメントレビューの実施後には、その実施の証拠として記録を作成しなければなりません。

QMS省令では   「管理監督者照査の結果の記録を作成し、これを保管しなければならない。」としか規定がありませんし、逐条解説(薬生監麻発0326第4号)でも「管理監督者照査の結果は、第19条及び第20条への適合性の重要な証拠となりうるので、適正に記録を作成し、保管すること。」としか記載がありません。

マネジメントレビューの記録に含める事項としては以下があります:

  • 実施年月日時
  • 参加者
  • 議事内容(インプット情報・アウトプット情報)
  • トップマネジメントからの指示
  • 記録の作成者・承認者

なお、当局による査察の際には、過去2・3年分のマネジメントレビューの実施年月日と参加者を示すよう指示されることが多いです。あらかじめ定められた頻度・間隔で、定められた要員が出席していることを確認し、以て規制要求事項への適合を確認するのです。

議事録の形でマネジメントレビューの記録を残している企業も多くあります。

マネジメントレビュー後の改善

マネジメントレビューからのアウトプットとして、QMS等の改善指示が出た場合には期日を定めて対応します。

重要な問題の場合にはCAPA(QMS省令第63条・64条)の仕組みを用いて改善に取り組むと良いでしょう。

まとめ

本記事ではマネジメントレビューについて具体的に解説しました。

マネジメントレビューは製造販売業者等のQMSの妥当性・有効性を維持、改善するための重要な活動です。

規制要求事項を遵守することはもちろんとして、有効なマネジメントレビューの実施によって御社のQMSの仕組みをよりブラッシュアップさせていってください。

「一から手順書を作成するのは難しい」という場合には、コンサルティング会社等のサポートを受けて手順書を作成してもらうのも良いと思います。

または、下記のようにひな形を販売している会社もありますので、まずはひな形を入手し、御社向けにアレンジしていくという方法でも良いでしょう。

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