• 第4章: 三役の設置と資格要件
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4.1 総括製造販売責任者

総括製造販売責任者(以下、総責)は、医療機器の製造販売業において、品質管理および安全管理業務を統括する最高責任者です。製造販売業の許可取得において、適格な総責の設置は最も基本的かつ重要な要件の一つとなります。

4.1.1 役割と責務

総責は、製造販売業者において以下の役割と責務を担います。

責務の区分具体的内容
品質管理業務の統括• 品質保証責任者の監督<br>• 品質管理業務の適正かつ円滑な実施の確保<br>• 重大な品質問題に関する決定
安全管理業務の統括• 安全管理責任者の監督<br>• 安全管理業務の適正かつ円滑な実施の確保<br>• 重大な安全性問題に関する決定
三役会議の主宰• 定期的な三役会議の開催<br>• 品質・安全に関する重要事項の共有と決定
製造業者等との連携• 製造業者との品質契約の管理<br>• 重要な品質問題の共有と対応
行政対応• 回収、緊急安全性情報等の重大案件に関する行政報告の最終承認<br>• 行政査察・調査への対応
経営層との連携• 品質・安全上の重要課題の経営層への報告<br>• 必要なリソース確保のための経営層への提言

総責は、製造販売業者における品質保証システムと安全管理システムの最高責任者として、その適切な運用に責任を持ちます。特に問題発生時には、迅速かつ適切な判断と対応が求められます。

4.1.2 資格要件(第一種〜第三種別)

医療機器の製造販売業許可の種類に応じて、総責の資格要件が定められています。

第一種医療機器製造販売業(高度管理医療機器:クラスⅣ、Ⅲ)

資格要件詳細
学歴要件以下のいずれかに該当すること<br>• 大学等で物理学、化学、生物学、工学、情報学、金属学、電気学、機械学、薬学、医学、歯学の課程を修了<br>• これと同等以上の知識を有すると認められる者
業務経験• 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品のいずれかの品質管理・製造業務、または研究開発業務に3年以上従事した経験<br>• このうち、医療機器の品質管理・製造業務に1年以上従事した経験が必要
資格取得• 総括製造販売責任者としての資質・能力を確認するための講習(総責講習)を修了していること

第二種医療機器製造販売業(管理医療機器:クラスⅡ)

資格要件詳細
学歴要件以下のいずれかに該当すること<br>• 大学等で物理学、化学、生物学、工学、情報学、金属学、電気学、機械学、薬学、医学、歯学の課程を修了<br>• 高度管理医療機器の販売営業所管理者の資格を有する者<br>• 登録販売者<br>• これらと同等以上の知識を有すると認められる者
業務経験• 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品のいずれかの品質管理・製造業務、または研究開発業務に3年以上従事した経験
資格取得• 総括製造販売責任者としての資質・能力を確認するための講習(総責講習)を修了していること

第三種医療機器製造販売業(一般医療機器:クラスⅠ)

資格要件詳細
学歴要件制限なし
業務経験• 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品のいずれかの品質管理・製造業務、または研究開発業務に3年以上従事した経験
資格取得• 総括製造販売責任者としての資質・能力を確認するための講習(総責講習)を修了していること

いずれの区分においても総責講習の修了が必須となります。また、資格要件を満たしていても、その業務を適正に行うことができない事由がある場合は、総責として不適格とみなされることがあります。

4.1.3 実務経験・従事経験要件

総責の資格要件における「実務経験・従事経験」について、詳細を解説します。

経験の種類適格と認められる経験の例
品質管理業務• 製品の試験検査業務<br>• 品質保証部門での業務<br>• 製品出荷判定業務<br>• 品質システム管理業務<br>• 製造販売後の品質情報管理業務
製造業務• 製造部門での製造管理業務<br>• 製造工程管理業務<br>• 製造設備の管理業務<br>• 製造バリデーション業務
研究開発業務• 医療機器の設計開発業務<br>• 非臨床試験の計画・実施・評価業務<br>• 臨床試験の計画・管理業務<br>• 製品の改良・改善業務

経験の証明方法

実務経験・従事経験の証明には、以下の書類が必要となります。

証明書類内容
実務経験証明書• 勤務先、所属部署、業務内容、従事期間が記載されたもの<br>• 当該企業の代表者または人事責任者による証明
業務内容説明書• 実際に行った業務の具体的内容の説明<br>• 特に品質管理・製造・研究開発のいずれに該当するかが明確であること
組織図• 勤務当時の組織体制がわかる組織図<br>• 本人の所属部署と役割が明確であること

4.1.4 兼任の制限

総責の兼任に関する制限は以下の通りです。

兼任の形態可否条件
同一企業内の他の製造販売業の総責可能• 取り扱う製品の特性、業務量等を考慮して支障がない場合<br>• 兼任する製品の種類(医薬品・医療機器等)によって条件が異なる
同一企業内の製造業の責任技術者可能• 当該製造所の製造管理・品質管理に支障がない場合<br>• 総責としての業務に支障がない場合
品質保証責任者可能• 第二種・第三種製造販売業では可能<br>• 第一種製造販売業では原則不可(例外的に認められる場合あり)
安全管理責任者可能• 第二種・第三種製造販売業では可能<br>• 第一種製造販売業では原則不可(例外的に認められる場合あり)
他社の総責や責任技術者不可• 製造販売業者ごとに設置が必要<br>• 複数の製造販売業者の総責を兼務することはできない
営業業務等との兼任条件付き可能• 総責としての職務遂行に支障がない場合のみ<br>• 利益相反を生じない業務に限る

特に、第一種製造販売業において、総責は品質保証責任者および安全管理責任者との兼任が原則として認められていないことに注意が必要です。

4.1.5 企業における位置づけと権限

総責が適切にその職責を果たすためには、企業内での適切な位置づけと十分な権限が必要です。

観点推奨される体制
組織上の位置づけ• 品質保証部門・安全管理部門を統括できる立場<br>• 経営層と直接コミュニケーションできる位置づけ<br>• 製造部門や営業部門から独立した立場
必要な権限• 品質・安全上の問題に関する最終判断権限<br>• 製品の出荷可否判断権限<br>• 緊急安全措置(回収等)の決定権限<br>• 品質システム・安全管理システムへのリソース配分提案権限
意思決定プロセス• 重大な品質・安全問題に関する明確な意思決定プロセスの確立<br>• 三役会議を通じた情報共有と意思決定<br>• 経営層への報告・承認体制

企業は、総責がその職責を適切に果たせるよう、必要な権限を付与し、組織上の位置づけを明確にする必要があります。

4.1.6 総括製造販売責任者講習

総責の資格要件の一つである「総括製造販売責任者講習」について解説します。

項目内容
実施機関公益財団法人医療機器センターなど、厚生労働大臣の登録を受けた機関
講習内容• 医薬品医療機器等法の概要<br>• 製造販売業者の責務<br>• 品質管理・安全管理の基本<br>• 総責の役割と責任<br>• 関連法規制
受講資格特に制限なし
有効期間受講修了日から2年間(2年以内に総責として届け出る必要がある)
受講頻度一度修了すれば再受講は不要(更新制度はない)

総責講習は、法改正や規制動向に関する最新情報も提供されるため、総責としての知識を更新する良い機会にもなります。

4.1.7 総括製造販売責任者の変更手続き

総責に変更が生じた場合の手続きは以下の通りです。

手続き内容
変更届出• 変更が生じた日から30日以内に届出が必要<br>• 届出先は、製造販売業の許可権者(都道府県知事)
必要書類• 製造販売業許可事項変更届<br>• 新任総責の資格を証明する書類(学歴証明、実務経験証明、講習修了証等)<br>• 製造販売業許可証(原本)
留意点• 総責の空白期間を作らないよう、事前に後任の確保・育成が重要<br>• 変更に伴い業務手順書の改訂が必要な場合は適切に対応

総責が退職等により不在となる場合は、速やかに後任を選任し、変更届出を行う必要があります。後任が決まらない場合でも、要件を満たす者を暫定的に選任することが推奨されます。

4.1.8 スタートアップ企業における総責確保の課題と対策

スタートアップ企業において、適格な総責の確保は大きな課題となります。

課題対策
人材の確保• 業界経験者のネットワークを活用<br>• 医療機器業界団体の人材バンク等の活用<br>• 人材紹介会社の活用<br>• 非常勤/顧問としての採用検討
コスト負担• 初期段階では第三種製造販売業から始め、事業拡大に応じて上位許可に変更<br>• 役員や既存社員が要件を満たすための教育・経験付与の計画的実施
適切な権限付与• 組織体制を明確にし、総責に必要な権限を付与<br>• 経営層の品質・安全に対するコミットメント確保
業務負担の軽減• 効率的な業務プロセスの構築<br>• 外部リソース(コンサルタント等)の活用<br>• IT システムの効果的活用

特に創業初期のスタートアップでは、創業者自身が要件を満たして総責を担当するケースも多いですが、業務量の増加に伴い、専任の総責の設置を検討することが望ましいでしょう。

4.1.9 総括製造販売責任者に求められるスキルと知識

法令上の資格要件に加え、総責には以下のようなスキルと知識が求められます。

区分具体的内容
規制知識• 医薬品医療機器等法の理解<br>• QMS省令、GVP省令の理解<br>• 関連通知・ガイダンスの理解<br>• 国際的な規制動向の理解
技術知識• 取扱製品の技術的理解<br>• 品質管理手法の理解<br>• リスクマネジメントの知識
マネジメントスキル• 品質システム・安全管理システムの運営能力<br>• 問題解決能力<br>• 危機管理能力<br>• チームマネジメント能力
コミュニケーションスキル• 経営層との効果的なコミュニケーション<br>• 製造業者等との連携能力<br>• 規制当局との適切なコミュニケーション

総責は、規制要件の遵守だけでなく、企業の品質文化を醸成し、製品の安全性と有効性を確保するリーダーシップも求められます。

4.1.10 効果的な総括製造販売責任者の育成方法

企業内で将来の総責候補を育成するための方法です。

育成方法内容
計画的なローテーション• 品質保証部門、安全管理部門、製造部門、開発部門等での経験付与<br>• 3年以上の必要経験を計画的に獲得させる
教育訓練• 総責講習の早期受講<br>• 関連法規制の教育<br>• QMS・GVPに関する教育<br>• 外部セミナー・研修への参加
OJT• 現職総責のサポート業務を通じた学習<br>• 三役会議への陪席<br>• 重要な意思決定プロセスへの参画
外部ネットワーク構築• 業界団体活動への参加<br>• 規制当局の説明会・相談会への参加<br>• 他社の品質・安全管理担当者との交流

中長期的な視点で計画的に総責候補を育成することは、事業の持続性と品質・安全管理体制の強化につながります。

4.1.11 総括製造販売責任者の評価指標

総責の適切な評価のための指標例です。

評価区分評価指標の例
規制遵守• 行政指導・処分の有無<br>• 重大な法令違反の有無<br>• 行政査察・調査での指摘事項とその対応
品質管理• 市場クレーム率<br>• 製品回収の発生状況<br>• 製品出荷の適切性<br>• 製造所監査の実施状況
安全管理• 不具合報告の適時性・適切性<br>• 安全対策の実施状況<br>• 安全性情報の評価・分析の質
システム管理• QMS・GVP体制の改善状況<br>• 内部監査の有効性<br>• 是正・予防措置の適切性
リーダーシップ• 品質文化の醸成<br>• リソース確保のための提案と実現<br>• 三役会議の効果的運営

これらの指標を通じて総責のパフォーマンスを定期的に評価し、必要に応じて支援や改善を行うことが重要です。


総括製造販売責任者は、医療機器の製造販売業において品質と安全を統括する最高責任者として極めて重要な役割を担います。その資格要件は法令で明確に定められており、許可区分に応じた適切な人材を確保・育成することが、医療機器ビジネスを適法かつ効果的に運営するための基盤となります。特にスタートアップ企業においては、限られたリソースの中で適格な総責を確保・育成する戦略的なアプローチが求められます。