11.4 保険償還価格の算定方法
医療機器の保険償還価格は、製品の市場性と事業収益に直接影響する重要な要素です。日本の保険償還価格の算定方法を理解することは、製品開発の初期段階から適切な事業戦略を立てる上で不可欠です。
基本的な償還価格算定方法
保険償還価格の算定は、申請区分によって異なるアプローチが適用されます:
- 類似機能区分比較方式(A1, A2, B1, B2区分)
- 既存の類似機能区分の価格を基準
- 製品の原価計算や外国価格は参考情報
- 類似性の程度によって価格調整
- 原価計算方式(A3, B3区分)
- 類似機能区分がない場合に適用
- 製造(輸入)原価をベース
- 販売費、一般管理費、営業利益等を加算
- 新機能区分(C1, C2区分)
- 類似機能区分との比較または原価計算
- 画期性、有用性などに基づく補正加算を考慮
- 定期的な再評価の対象
補正加算の種類と要件
新規性や有用性の高い医療機器には、以下の補正加算が適用される可能性があります:
加算の種類 | 加算率 | 主な要件 |
---|---|---|
画期性加算 | 50~100% | 原理・構造・製造方法の画期性、高い臨床上の有用性 |
有用性加算 | 5~30% | 構造等の工夫による臨床上の有用性の向上 |
改良加算 | 1~20% | 構造等の工夫による使用方法の改良 |
市場性加算Ⅰ | 10% | 類似製品の市場規模が小さい(希少疾病用医療機器等) |
市場性加算Ⅱ | 1~5% | 市場が小さく、十分な競争環境にない |
補正加算の適用には、臨床データや比較試験等による客観的なエビデンスが重要となります。特に革新的な医療機器開発を行うスタートアップ企業にとって、補正加算の獲得は事業成功の重要な要素になります。
償還価格の改定と維持
償還価格は定期的(原則2年ごと)に改定されます:
- 定期的な価格改定
- 実勢価格と公定価格の乖離是正
- 外国価格との均衡調整
- 特例引下げ(再算定)
- 価格維持の戦略
- 製品の差別化による競争優位性の確保
- 市場拡大再算定の回避
- 製品改良によるライフサイクル管理
特に医療機器ベンチャーにとっては、初回の保険償還価格設定が重要であると同時に、長期的なライフサイクルを見据えた価格戦略の策定が求められます。革新的な技術や明確な臨床的有用性を持つ製品は、より有利な価格設定と価格維持が可能になります。