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8.3 SaMDのサイバーセキュリティ対策

SaMD(Software as a Medical Device)のサイバーセキュリティ対策は、患者安全に直結する重要事項です。ネットワークに接続され外部からアクセス可能な性質を持つSaMDは、従来の医療機器よりも高度なセキュリティ対策が求められます。

8.3.1 FDA/PMDAのサイバーセキュリティガイダンス

SaMDのサイバーセキュリティに関して、各国規制当局は重要なガイダンスを発行しています:

PMDA関連ガイダンス:

  • 「医療機器におけるサイバーセキュリティの確保について」
  • 「医療機器のサイバーセキュリティの確保に関するガイダンス」
  • 「医療機器のサイバーセキュリティに関する市販後対応ガイダンス」

FDA関連ガイダンス:

  • 「Cybersecurity in Medical Devices」
  • 「Postmarket Management of Cybersecurity in Medical Devices」
  • 「Content of Premarket Submissions for Cybersecurity in Medical Devices」

これらのガイダンスに共通するのは、「セキュリティバイデザイン」の考え方であり、開発初期段階からセキュリティを考慮した設計を行うことが重視されています。

8.3.2 リスクアセスメントとセキュリティ設計

SaMDのセキュリティ対策は、体系的なリスクアセスメントに基づいて設計する必要があります。

リスクアセスメントのプロセス:

  1. 資産の特定
    • 保護すべき情報資産(患者データ等)
    • システム資産(ソフトウェアコンポーネント等)
    • 運用資産(バックエンドシステム等)
  2. 脅威モデリング
    • STRIDE分析(なりすまし、改ざん、否認等)
    • 攻撃ツリー分析
    • ユースケース・ミスユースケース分析
  3. 脆弱性評価
    • コンポーネント脆弱性(SOUP含む)
    • アーキテクチャ脆弱性
    • 実装脆弱性
  4. リスク評価
    • 影響度×発生可能性
    • セキュリティリスクと安全リスクの関連付け

セキュリティ設計の基本対策:

分野主な対策
認証・認可強固な認証メカニズム、最小権限の原則、多要素認証
データ保護保存データの暗号化、転送データの暗号化、データの完全性確保
通信セキュリティセキュアなプロトコル、APIセキュリティ、ネットワーク分離
システム強化不要サービス・ポートの無効化、セキュアな設定、コード署名

8.3.3 セキュリティテストと脆弱性管理

設計したセキュリティ対策の有効性を確認するため、体系的なセキュリティテストと脆弱性管理が必要です。

セキュリティテストの種類:

  1. 静的アプリケーションセキュリティテスト(SAST)
    • ソースコード解析
    • コーディングルール遵守確認
    • 既知の脆弱性パターン検出
  2. 動的アプリケーションセキュリティテスト(DAST)
    • 実行環境での脆弱性検査
    • ペネトレーションテスト
    • ファジングテスト
  3. ソフトウェアコンポジション分析(SCA)
    • サードパーティコンポーネント検査
    • 既知脆弱性データベース(CVE等)との照合
    • ライセンスコンプライアンス確認

脆弱性管理プロセス:

  1. 脆弱性情報収集
    • 脆弱性情報ソース(JPCERT/CC、JVN、NVD等)の監視
    • ベンダーセキュリティ情報の収集
    • セキュリティ研究コミュニティの監視
  2. 脆弱性評価
    • 自社製品への影響評価
    • リスクの優先順位付け
    • 対応期限の設定
  3. 脆弱性対応
    • 修正パッチ開発
    • 回避策の提供
    • アップデート配布

8.3.4 市販後のセキュリティ監視と対応

SaMDのセキュリティは市販後も継続的に維持・向上させる必要があり、そのための体制構築が重要です。

市販後セキュリティ管理の主要要素:

  1. セキュリティ監視体制
    • セキュリティインシデント検知システム
    • ログ監視・分析
    • 異常検知メカニズム
    • 脆弱性情報の定期的レビュー
  2. インシデント対応計画
    • インシデント対応チーム編成
    • エスカレーションフロー
    • 初動対応手順
    • 回復手順
    • コミュニケーション計画
  3. パッチ管理・更新プロセス
    • 定期的セキュリティパッチ計画
    • 緊急パッチ対応フロー
    • パッチ検証プロセス
    • 配布メカニズム
    • 適用状況の追跡
  4. 継続的改善
    • 定期的セキュリティ評価
    • ペネトレーションテスト
    • セキュリティ監査
    • ユーザーフィードバック分析

PMDAの「医療機器のサイバーセキュリティに関する市販後対応ガイダンス」で示される不具合報告基準に基づき、セキュリティインシデントが発生した場合の適切な報告体制を整えることが特に重要です。