• 第8章: SaMD(Software as a Medical Device)の開発と規制対応
  • HOME
  • 第8章: SaMD(Software as a Medical Device)の開発と規制対応

8.1 SaMDの定義と特性

SaMD(Software as a Medical Device)とは、国際医療機器規制当局フォーラム(IMDRF)の定義によれば「1つ以上の医療目的を果たすことを意図したソフトウェアであり、それ自体が医療機器であるもの」を指します。つまり、特定のハードウェア医療機器に依存せず、独立して医療目的を果たすソフトウェアです。

SaMDの主な特性には以下が含まれます:

  1. 独立性:特定のハードウェア医療機器に組み込まれず、汎用コンピュータやモバイルデバイスなどで動作する
  2. 医療目的性:診断支援、治療計画立案、疾病管理など明確な医療目的を持つ
  3. デジタル性:プログラムコードとして実装され、様々なプラットフォームで実行可能
  4. 柔軟性:市販後のアップデートによる機能改善や拡張が可能
  5. スケーラビリティ:物理的制約なく短期間で広範囲に展開できる

8.1.1 SaMDとプログラム医療機器の違い

SaMDとプログラム医療機器は密接に関連していますが、重要な違いがあります:

項目SaMDプログラム医療機器
定義の主体IMDRF(国際的枠組み)薬機法(日本国内法)
範囲単独で医療目的を持つソフトウェア医療機器として規制されるプログラム
ハードウェアとの関係ハードウェア非依存ハードウェア非依存のものに限定
規制対象各国規制によって異なる薬機法で規制

日本では2014年の薬事法改正(薬機法への改称)により、プログラム自体が医療機器として規制対象となりました。日本におけるプログラム医療機器はSaMDの概念に相当しますが、日本の法規制における具体的な定義と分類に基づいています。

8.1.2 SaMDのリスクレベル分類(IMDRF枠組み)

IMDRFはSaMDのリスク分類として、健康への貢献度と患者の状態に基づく4段階のフレームワークを定義しています:

リスクレベル非重篤・危篤状態重篤危篤
情報提供IIIIII
治療・診断の支援IIIIIIII
診断・治療の決定IIIIIIV

各レベルの特徴:

  • レベルI:低リスク、情報提供のみ(健康記録アプリ等)
  • レベルII:中リスク、医療判断の支援(一般的な診断支援等)
  • レベルIII:中~高リスク、重篤な状態での判断支援(特定疾患の診断支援等)
  • レベルIV:最高リスク、危篤状態での治療・診断決定(生命維持に関わる判断等)

このリスク分類は日本のクラス分類(I~IV)とも概ね対応しており、開発初期段階で適切な規制対応を検討する上で重要な判断基準となります。

8.1.3 日本におけるSaMD規制の概要

日本では2014年の薬機法改正により、プログラム医療機器として法的枠組みが確立されました:

  1. 医療機器プログラムの該当性判断
    • 医療機器該当性:診断、治療、予防を目的とするか
    • 一般的名称:304の一般的名称から選択
  2. クラス分類と申請区分
    • クラスI:届出(一部のSaMDのみ)
    • クラスII:認証または承認
    • クラスIII/IV:承認
  3. 主な規制要件
    • QMS適合性調査(ソフトウェア開発特有の要件含む)
    • サイバーセキュリティ要件(「医療機器におけるサイバーセキュリティの確保について」等)
    • ソフトウェアライフサイクルプロセス(IEC 62304への適合)

日本特有の要件として、クラウドで提供されるSaMDの場合、製造販売業許可に加え、クラウドサービス提供事業者には製造業登録が必要となる場合があります。

8.1.4 各国におけるSaMD規制の比較(米国、欧州、アジア)

主要地域におけるSaMD規制の比較:

項目日本米国EU中国韓国
規制法令薬機法FDCAMDR医療機器監督管理条例医療機器法
所管組織PMDAFDA公認認証機関NMPAMFDS
AIへの対応通知で規定AI/MLアクションプラン特別規定ガイドラインガイドライン
クラウドSaMD製造業登録FDA規制対象MDR対象特別要件特別要件
市販後更新一部変更承認等SaMD事前変更計画PSUR対応届出制届出制

地域別の特徴:

  • 米国:FDA Digital Health イニシアチブ、Pre-Cert プログラムによる革新的アプローチ
  • EU:MDRによる厳格な規制、QMS要件強化、AI規制法との調和
  • 中国:国家戦略としてのAI医療機器開発推進、審査の迅速化
  • 韓国:革新医療機器指定制度によるSaMD促進、規制サンドボックス

国際展開を計画する場合は、各国規制の違いを理解し、開発初期から対応戦略を立てることが重要です。特にAI/ML搭載SaMDは各国で規制が進化している分野のため、最新動向の把握が必須となります。