6.3 体外診断用医療機器基本要件基準
6.3.1 体外診断用医療機器特有の要求事項
体外診断用医療機器(IVD)は、人体から採取した検体を用いて疾病の診断に用いられる医療機器です。通常の医療機器とは異なる特有の要求事項があります。
6.3.1.1 性能特性(分析性能・臨床性能)
IVD機器の性能特性は大きく分析性能と臨床性能に分けられます。
分析性能パラメータ | 内容 | 証明方法の例 |
---|---|---|
感度 | 測定可能な最小濃度/最小検出限界 | 低濃度サンプル測定試験 |
特異度 | 目的物質のみを検出する能力 | 交差反応性試験 |
精度 | 測定値のバラつきの程度 | 同時再現性・日差再現性試験 |
真度 | 測定値の真の値との一致度 | 標準物質による回収試験 |
直線性 | 測定範囲内での直線関係 | 希釈直線性試験 |
測定範囲 | 正確に測定できる濃度範囲 | 定量限界・検出限界試験 |
臨床性能は、臨床的感度・特異度、陽性/陰性的中率、ROC解析などで評価します。これらは実際の臨床検体を用いた試験や既存の診断法との比較試験で証明します。
6.3.1.2 化学的・物理的要求事項
体外診断用医療機器には以下の化学的・物理的要求事項があります:
- 試薬の安定性(有効期間、開封後安定性など)
- 温度・湿度などの環境条件に対する耐性
- 試薬と容器の適合性(溶出物質がないこと)
- キット構成品間の相互作用がないこと
- 測定系の安定性(校正安定性など)
これらは安定性試験、環境試験などで検証します。
6.3.1.3 感染と微生物汚染に関する要求事項
IVD機器は生体由来検体を扱うため、以下の要求事項があります:
- 使用者の感染防止対策
- 検体間のクロスコンタミネーション防止
- 微生物汚染防止のための設計
- 滅菌製品の場合は滅菌バリデーション
デザインレビューやリスク分析、製品検証試験で対応します。
6.3.1.4 製造と環境に関する要求事項
製造環境と製品の環境耐性に関する要求事項です:
- 製造環境の清浄度管理
- 環境条件(温度、湿度、光など)に対する製品安定性
- 輸送・保管条件の妥当性
- 廃棄における環境影響への配慮
環境試験や輸送試験などで検証します。
6.3.1.5 測定機能を有する機器に関する要求事項
定量的な測定を行うIVD機器には以下の要求事項があります:
- 測定の正確さと精度
- トレーサビリティ(標準物質、校正など)
- 校正の安定性
- 測定単位の適切な表示
校正検証や性能試験で証明します。
6.3.1.6 放射線防護に関する要求事項
放射性物質を用いるIVD(RIA法など)には以下の要求事項があります:
- 放射線被ばく量の最小化
- 放射線漏洩防止措置
- 放射性廃棄物の適切な取扱い指示
- 放射線警告表示
放射線測定試験や設計検証で対応します。
6.3.1.7 自動化された機器の要求事項
自動分析装置などには以下の要求事項があります:
- 動作の再現性と信頼性
- 故障時の安全機能(フェイルセーフ)
- ユーザー介入必要時の明確な表示
- ソフトウェアの検証(IEC 62304準拠)
- キャリブレーション手順の確立
ソフトウェア検証や性能試験で証明します。
6.3.1.8 表示・ラベル・添付文書に関する要求事項
IVD特有の表示要件として以下があります:
- 体外診断用医薬品/医療機器である旨の表示
- 使用目的・使用方法の明示
- 性能特性(感度・特異度など)の記載
- 干渉物質・交差反応性情報
- 標準値・カットオフ値情報
- 測定原理の説明
- 検体の採取・取扱い方法
ラベル審査やユーザビリティ検証で対応します。
6.3.2 体外診断用医療機器の基本要件適合性証明の特徴
体外診断用医療機器の基本要件適合性証明には、以下の特徴があります:
- 検体との相互作用重視:生体内に入らないため、生体適合性よりも検体との相互作用や干渉物質の影響評価が重要です。
- 性能評価の重要性:診断結果の正確性が直接患者のリスクに関わるため、分析性能と臨床性能の証明が特に重要です。
- 標準物質・校正の重視:測定値の正確性を保証するため、トレーサビリティの確保が重要です。
- コントロール(陽性・陰性対照)の役割:システムの正常動作確認のためのコントロールの設定が重要です。
- 使用者への情報提供:結果解釈の支援情報(基準値、カットオフ値など)の提供が必須です。
6.3.3 品質管理パラメータと基本要件の関係
IVD機器の品質管理パラメータと基本要件の関連は以下の通りです:
品質管理パラメータ | 関連する基本要件 | 対応方法 |
---|---|---|
ロット間一貫性 | 性能の一貫性、測定の信頼性 | ロット間差試験、製造管理基準 |
試薬安定性 | 有効期間内の性能維持 | 安定性試験(実時間/加速) |
校正頻度 | 測定の正確さ維持 | 校正検証試験、ドリフト評価 |
精度管理 | 測定の信頼性 | 内部・外部精度管理プログラム |
干渉物質管理 | 結果の信頼性 | 干渉物質試験、添付文書への記載 |
これらのパラメータを適切に管理することで、基本要件への適合性を証明します。
6.3.4 校正物質・標準物質と基本要件
校正物質・標準物質は体外診断用医療機器の性能を担保する重要な要素です。
- トレーサビリティの確保:
- 国際標準物質(WHO標準品など)へのトレーサビリティ
- 認証標準物質(CRM)の活用
- 校正階層の確立と文書化
- 校正物質の安定性:
- 長期安定性評価
- 使用中の安定性(開封後、希釈後など)
- 適切な保存条件の設定
- マトリックス効果への対応:
- 実検体に近いマトリックスでの校正
- マトリックス効果の評価と補正方法
- 不確かさの評価:
- 校正の不確かさ評価
- 測定結果への影響分析
- 校正物質と基本要件の関連性:
- トレーサビリティは測定の正確性(基本要件)を支える基盤
- 校正の頻度と方法は測定の信頼性(基本要件)を担保
標準物質・校正物質の適切な設定と管理は、IVD機器の基本要件適合性の重要な証拠となります。
以上が体外診断用医療機器の基本要件基準の概要です。体外診断用医療機器は、診断結果が治療方針決定や疾病スクリーニングに直結するため、その性能評価と信頼性確保が特に重要です。ベンチャー・スタートアップ企業は、開発初期段階から上記の要求事項を考慮した設計開発を行うことで、効率的に基本要件への適合性を確保できます。