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5.2 設計開発プロセス

医療機器の設計開発プロセスは、高品質で安全な製品を効率的に開発するための体系的なアプローチです。このプロセスはISO 13485(医療機器の品質マネジメントシステム)の要求事項に沿って構築する必要があります。

5.2.1 設計開発計画

設計開発計画は、製品開発の全体的な枠組みを定義します。

計画に含めるべき要素:

  • 開発対象の医療機器の明確な定義
  • 開発の各段階と活動
  • 設計インプット・アウトプットの検証方法
  • 責任と権限の割り当て
  • 必要なリソースの特定
  • 各ステージゲートでの判断基準
  • 他の部門との連携方法(品質保証、生産、マーケティングなど)

設計開発計画書は「生きた文書」であり、開発の進行に伴って適宜更新していくことが重要です。計画の変更には文書化された承認が必要です。

5.2.2 設計開発インプット

設計開発インプットは製品設計の基礎となる要件や仕様です。

主な設計インプット情報:

カテゴリ具体例
顧客要求臨床ニーズ、使用環境、ユーザビリティ要件
機能要件性能仕様、動作原理、機能的特性
規制要件基本要件基準、適用される規格・基準
安全要件リスク対策、安全機能、警告・注意事項
技術要件材料特性、構成部品、製造方法
検証要件試験方法、合格基準、バリデーション手法

インプット要件には曖昧さがなく、検証可能であることが重要です。また、要件間の矛盾や衝突を解消しておく必要があります。

5.2.3 設計開発アウトプット

設計開発アウトプットは、インプット要件を満たすための具体的な製品仕様や設計成果物です。

主な設計アウトプット:

  • 製品仕様書(機能、性能、物理的特性)
  • 設計図面・回路図
  • ソフトウェア仕様・アーキテクチャ
  • 材料仕様
  • 製造工程仕様
  • ラベル・添付文書の案
  • 検査基準・試験方法
  • 使用・保守マニュアル

アウトプットは設計インプットと対比できるようにトレーサビリティを確保し、承認前に設計インプット要件との適合性を評価する必要があります。

5.2.4 設計開発レビュー

設計開発レビューは、開発の各段階で設計の適切性を評価するための体系的なレビュープロセスです。

レビューのタイミングと内容:

レビュー時点主な確認内容
概念設計完了時製品コンセプトの妥当性、市場ニーズとの適合性
詳細設計完了時設計仕様の完全性、技術的実現可能性
プロトタイプ完成時設計の実現性、初期性能評価
検証テスト完了時検証結果の評価、規制要件への適合性
量産移行前製造可能性、量産体制の準備状況

レビューには関連する専門部署(研究開発、生産技術、品質保証、薬事、臨床、マーケティングなど)の代表者が参加し、レビュー結果と必要な処置を記録します。

5.2.5 設計開発検証と妥当性確認

設計開発検証は「正しく製品を作っているか」を確認するプロセスであり、妥当性確認は「正しい製品を作っているか」を確認するプロセスです。

設計検証(Verification):

  • 設計アウトプットが設計インプット要件を満たしていることを確認
  • 物理的・化学的特性試験、電気的安全性試験、性能試験などを実施
  • 国際規格(IEC/ISO規格)に基づく試験方法の採用
  • 検証結果の文書化と評価

妥当性確認(Validation):

  • 製品が意図された使用目的に適合していることを確認
  • 模擬使用環境下での機能・性能評価
  • ユーザビリティテスト
  • 安全性と有効性の総合評価
  • 必要に応じて臨床評価・臨床試験の実施

検証と妥当性確認のプロトコルには、試験方法、合格基準、実施責任者、記録方法を明確に規定する必要があります。

5.2.6 設計開発移管

設計開発移管は、開発段階から量産段階への移行プロセスです。

設計移管の主要プロセス:

  • 生産技術への設計情報の伝達
  • 製造方法・設備の検証
  • 製造指図書・検査手順書の作成
  • 製造プロセスバリデーション
  • 初期生産ロットの評価
  • トレーニング実施と技術支援体制の確立

設計移管では開発部門と生産部門の緊密な連携が必要です。製造現場でのフィードバックを設計にフィードバックする仕組みも重要です。

5.2.7 設計開発変更管理

設計開発変更管理は、設計変更を体系的に管理するプロセスです。

変更管理の主要ステップ:

  1. 変更提案・要求の文書化
  2. 変更の影響評価(安全性、性能、規制への影響)
  3. 変更審査と承認
  4. 変更実施と検証
  5. 関連文書の更新
  6. 規制当局への届出(必要な場合)

変更の程度によって申請区分(承認事項一部変更承認申請、軽微変更届など)が異なるため、薬事的な影響を慎重に評価する必要があります。

5.2.8 設計履歴ファイル(DHF)の作成

設計履歴ファイル(Design History File: DHF)は、設計開発プロセス全体を文書化したファイルです。

DHFに含めるべき文書:

  • 設計開発計画書
  • 設計インプット・アウトプット文書
  • 設計レビュー記録
  • 検証・妥当性確認の計画書と報告書
  • リスク分析記録
  • 設計変更記録
  • 設計移管記録

DHFは製品の全ライフサイクルを通じて維持管理し、規制当局の査察や審査に対応できるよう整理しておく必要があります。

5.2.9 各種国際規格への適合性確保

医療機器の設計開発では、適用される国際規格への適合性を確保することが重要です。

主要な国際規格対応:

規格分類主な規格対応ポイント
品質マネジメントISO 13485設計管理プロセスの確立
リスクマネジメントISO 14971リスク分析と低減策の実施
ソフトウェアIEC 62304ソフトウェアライフサイクルプロセスの確立
ユーザビリティIEC 62366ユーザビリティエンジニアリングの適用
電気的安全性IEC 60601電気的安全要件への適合
生物学的評価ISO 10993生体適合性評価の実施

開発初期段階で適用すべき規格を特定し、規格要求事項を設計インプットに反映させることが重要です。規格適合性は試験や評価を通じて証明し、その証拠を文書化します。


医療機器の設計開発プロセスは体系的かつ反復的なアプローチで進めることが成功の鍵です。各プロセスステップを適切に文書化し、トレーサビリティを確保することで、規制要件への適合性と製品の品質・安全性の両立が可能になります。特にスタートアップ企業では限られたリソースの中で効率的に進めるために、プロセスの簡素化と重点化を工夫することが重要です。