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2.4 国内外の規制当局(PMDA、FDA、EUなど)

医療機器の開発・販売には、各国・地域の規制当局による承認・認証が必要です。特にグローバル展開を視野に入れるスタートアップ企業にとって、主要な規制当局の役割や特徴を理解することは重要です。ここでは、主要な規制当局について解説します。

日本の規制当局

厚生労働省(MHLW)

厚生労働省は医療機器に関する法規制の制定や政策立案を担当する行政機関です。

主な役割:

  • 薬機法(医薬品医療機器等法)の所管
  • 医療機器の規制に関する政策立案
  • 承認された医療機器の認可
  • 重大な不具合発生時の行政措置

医薬品医療機器総合機構(PMDA)

PMDAは厚生労働省の所管する独立行政法人で、医療機器の審査・安全対策を担当します。

主な役割:

  • 医療機器の承認審査
  • 各種相談業務(開発相談、申請前相談など)
  • 市販後安全対策(副作用・不具合報告の収集・分析)
  • GLP/GCP/QMS等の適合性調査
  • 医療機器の再審査・再評価

PMDAの特徴:

  • 審査の透明性と一貫性を重視
  • 科学的根拠に基づく審査
  • 相談制度が充実(有料)
  • 革新的医療機器に対する特別審査制度あり(先駆け審査指定制度など)

第三者認証機関

管理医療機器(クラスⅡ)の多くは、PMDAではなく第三者認証機関による認証制度の対象となります。

主な認証機関:

  • 一般財団法人 日本品質保証機構(JQA)
  • 一般財団法人 医療機器センター(JAAME)
  • ビューローベリタスジャパン株式会社
  • SGS ジャパン株式会社
  • テュフ ラインランド ジャパン株式会社

米国の規制当局

食品医薬品局(FDA)

FDAは米国保健福祉省の一部門で、世界で最も影響力のある医療機器規制当局の一つです。

主な役割:

  • 医療機器の市販前承認(PMA)と市販前届出(510(k))の審査
  • 医療機器の安全性と有効性の評価
  • GMP査察(QSR:Quality System Regulation)
  • 市販後監視(PMS)
  • 規制違反に対する措置

FDAの特徴:

  • リスクベースアプローチによる規制
  • 革新的技術に対する柔軟な審査プログラム(Breakthrough Device、De Novoなど)
  • 市販前審査と市販後監視の両方を重視
  • 産業界とのコミュニケーションが活発

FDA審査プロセスの種類

審査プロセス対象特徴
市販前承認(PMA)クラスⅢ医療機器臨床試験データが必要、審査期間が長い
510(k)クラスⅡ医療機器既存製品との実質的同等性を示す、比較的短期間
De Novo申請新規低〜中リスク機器新しいタイプの低〜中リスク機器向け
Breakthrough Device革新的医療機器重篤な疾患向けの革新的機器の審査迅速化
Humanitarian Device Exemption希少疾患向け機器症例数が少ない疾患向け、有効性の証明要件が緩和

欧州の規制体系

欧州医療機器規則(MDR)と体外診断用医療機器規則(IVDR)

2017年に発効した新たな規制体系で、以前の医療機器指令(MDD)と体外診断用医療機器指令(IVDD)に代わるものです。

主な特徴:

  • より厳格な市販前評価
  • 透明性と追跡可能性の強化
  • 市販後監視の強化
  • 臨床評価の要件強化
  • リスク分類の見直し

公認機関(Notified Body)

欧州では、各国が指定した公認機関が適合性評価を実施します。

主な公認機関:

  • TÜV SÜD
  • TÜV Rheinland
  • BSI
  • DEKRA
  • DNV GL

公認機関の役割:

  • 技術文書の審査
  • QMS(ISO 13485)の審査
  • 適合性評価の実施
  • CE証明書の発行

各国の規制当局

欧州各国には独自の規制当局が存在し、自国内の医療機器の監視や公認機関の指定を行っています。

主な規制当局:

  • ドイツ:連邦医薬品医療機器研究所(BfArM)
  • フランス:国立医薬品・健康製品安全庁(ANSM)
  • 英国:医薬品・医療製品規制庁(MHRA)
  • イタリア:医薬品庁(AIFA)

アジア地域の主要規制当局

中国:国家薬品監督管理局(NMPA)

主な特徴:

  • 厳格な登録プロセス
  • 中国語の技術文書が必要
  • 現地臨床試験が要求されることが多い
  • 登録期間が長い(1〜3年)

韓国:食品医薬品安全処(MFDS)

主な特徴:

  • 日本や欧米に類似した規制体系
  • クラス分類システムはFDAに類似
  • 外国メーカーには現地代理人が必要
  • 技術文書の韓国語への翻訳が必要

シンガポール:健康科学庁(HSA)

主な特徴:

  • 比較的効率的な承認プロセス
  • 参照国制度(米国、欧州、日本、カナダ、オーストラリアでの承認を参照)
  • ASEAN加盟国の規制調和の中心的役割
  • 外国メーカーには現地代理人が必要

国際的な規制調和の取り組み

国際医療機器規制当局フォーラム(IMDRF)

IMDRFは医療機器規制の国際的な調和を目的とした規制当局による自主的組織です。

参加国・地域:

  • 日本(MHLW/PMDA)
  • 米国(FDA)
  • 欧州(EU)
  • カナダ(Health Canada)
  • オーストラリア(TGA)
  • ブラジル(ANVISA)
  • 中国(NMPA)
  • ロシア(Roszdravnadzor)
  • シンガポール(HSA)
  • 韓国(MFDS)

主な取り組み:

  • 共通の用語や定義の策定
  • 規制の世界的な基本原則の確立
  • 技術文書の国際的フォーマット(STED)
  • 医療機器単一監査プログラム(MDSAP)
  • ソフトウェア医療機器(SaMD)の規制フレームワーク

医療機器単一監査プログラム(MDSAP)

MDSAPは、複数の国・地域で認められる単一のQMS監査を実現するプログラムです。

参加国:

  • 米国(FDA)
  • カナダ(Health Canada)
  • オーストラリア(TGA)
  • ブラジル(ANVISA)
  • 日本(MHLW/PMDA)

主なメリット:

  • 複数国に対応する監査の重複を回避
  • 監査コストの削減
  • 複数国への市場参入の効率化

主要規制当局の比較

規制当局根拠法クラス分類審査アプローチ特徴的なプログラム
PMDA(日本)薬機法クラスⅠ〜Ⅳリスクベース先駆け審査指定制度、特定臨床研究
FDA(米国)FD&C ActクラスⅠ〜ⅢリスクベースBreakthrough Device、De Novo
EUMDR/IVDRクラスⅠ〜ⅢリスクベースPMCF(市販後臨床フォローアップ)
NMPA(中国)医療機器監督管理条例クラスⅠ〜Ⅲリスクベース革新的医療機器特別審査プロセス
MFDS(韓国)医療機器法クラスⅠ〜Ⅳリスクベース革新的製品指定制度

スタートアップ企業のためのグローバル規制対応戦略

段階的な市場展開計画

  1. 国内市場で実績構築
    • 日本市場で先に承認を取得
    • 市販後データを収集
    • 製品改良とフィードバック反映
  2. グローバル展開の優先順位決定
    • 市場規模と成長性
    • 規制の複雑さと参入障壁
    • 現地販売パートナーの有無
    • 知的財産保護状況
  3. 複数地域の同時申請計画
    • 共通のコアデータパッケージ作成
    • 地域別の追加要件対応
    • 翻訳・現地化計画

リソース効率化のためのアプローチ

  1. 規制調和の活用
    • IMDRF文書の活用
    • MDSAP参加で監査の重複回避
    • 国際規格への準拠
  2. 外部リソースの活用
    • 規制コンサルタントの活用
    • 現地代理人との連携
    • CRO(医薬品開発業務受託機関)の利用
  3. デジタルツールの活用
    • 文書管理システム
    • 規制情報データベース
    • 翻訳支援ツール

国際展開を見据えたデザイン戦略

初期段階からのグローバル視点

  1. 国際規格に基づく設計
    • ISO/IEC規格への準拠
    • 複数地域の要件を満たす設計
  2. 文書管理の国際化
    • 英語をベースとした文書体系
    • 各国規制に適応可能な文書構造
    • STEDフォーマットの活用
  3. 臨床開発の国際化
    • 国際的に認められる臨床試験デザイン
    • 複数地域のエンドポイント要件対応
    • グローバル臨床研究ネットワークの活用

医療機器のグローバル展開を目指すスタートアップ企業は、初期の製品設計段階から各国・地域の規制要件を考慮することが重要です。段階的かつ戦略的なアプローチにより、限られたリソースで効率的に国際展開を進めることが可能となります。