カナダの医療機器に関する薬事規制

カナダでは医療機器の安全性と有効性を確保するため、厳格な薬事規制システムが構築されている。カナダ保健省(Health Canada)が医療機器規制を所管し、「医療機器規則(Medical Devices Regulations)」に基づき運用を行っている。カナダの人口は約3,800万人であり、北米の医療機器市場としては米国に次ぐ規模となっている。

医療機器の分類システム

カナダでは医療機器をリスクに基づいて4つのクラスに分類している。クラスⅠからクラスⅣまであり、数字が大きくなるほどリスク度が高くなる仕組みとなっている。

  • クラス:最もリスクが低い機器(例:非滅菌の包帯、聴診器)
  • クラス:低〜中程度のリスク(例:コンタクトレンズ、聴覚補助器)
  • クラス:中〜高程度のリスク(例:整形外科用インプラント、血糖値測定器)
  • クラス:最もリスクが高い機器(例:ペースメーカー、人工弁)

カナダの医療機器分類システムは日本のような製品リスト方式ではなく、欧州と同様のルール方式を採用している。具体的には、医療機器の使用目的、侵襲性、人体との接触期間、エネルギー供給の有無などの要素に基づいて分類ルールが設定されており、これらのルールに従って各医療機器のクラスが決定される。このルールベースのアプローチにより、新しい技術や製品が登場した場合でも、既存の分類体系内で評価することが可能となっている。
機器の分類によって、申請要件と審査の厳格さが異なることに留意が必要である。

医療機器ライセンス(MDL)

クラスⅡ以上の医療機器をカナダ市場で販売するためには、医療機器ライセンス(Medical Device Licence: MDL)を取得しなければならない。申請には以下の資料が必要となる。

  1. 品質マネジメントシステム証明書:ISO 13485規格への適合を示す証明書
  2. 安全性・有効性データ:臨床試験結果や非臨床試験データ
  3. ラベリング情報:製品表示や添付文書の内容
  4. リスク分析:機器使用に伴うリスク評価と対策

クラスⅢおよびⅣの機器については、より詳細な臨床データや安全性評価が求められる。
重要な点として、クラスⅡ、Ⅲ、Ⅳの医療機器ライセンスは年次ライセンスレビューが必要である。製造業者は毎年、ライセンスの継続に必要な手続きと手数料の支払いを行わなければならない。

医療機器施設ライセンス(MDEL)とMDSAP

カナダで医療機器の輸入や販売を行う企業は、医療機器施設ライセンス(Medical Device Establishment Licence: MDEL)を取得する必要がある。これは製造業者だけでなく、輸入業者や販売代理店も対象となる。ただし、クラスⅠ機器のみを製造する施設はMDEL取得が免除される。
MDELを取得するためには、以下の要件を満たさなければならない:

  1. 適切な品質マネジメントシステムを実装していること
  2. 苦情処理および回収手順を確立していること
  3. 適切な記録管理システムを持つこと

カナダ保健省(Health Canada)は2019年1月1日以降、従来のCAMDCAS(Canadian Medical Devices Conformity Assessment System)に代わり、医療機器単一監査プログラム(Medical Device Single Audit Program: MDSAP)の受審を義務化した。この移行は2017年と2018年を移行期間として段階的に実施され、2019年1月1日以降はMDSAP認証のみが受け入れられるようになった。2019年1月1日の移行期限時点で、カナダ保健省は医療機器製造業者の90%以上を代表する3,000件以上の移行申請またはMDSAP認証書を受け取ったと報告されている。
カナダは人口3,800万人程度であり、医療機器市場としては必ずしも大きいとは言えない。しかしながら、MDSAP義務化により、カナダに医療機器を輸出する企業は市場規模の割にコストと労力を投じてMDSAP認証を取得せざるを得なくなっている。この点は特に中小企業にとって参入障壁となる可能性がある。

特別アクセスプログラム(SAP)

未承認の医療機器であっても、緊急性の高い医療ニーズに対応するために特別アクセスプログラム(Special Access Programme: SAP)という制度がある。これは生命を脅かす状況や重篤な疾患の患者に対し、通常の承認プロセスを経ていない機器へのアクセスを限定的に認めるものである。

市販後監視

カナダでは、市場に出た医療機器の安全性を継続的に確保するため、以下の市販後監視制度が設けられている。

  1. 有害事象報告:重大な有害事象は発生を知った日から10日以内、その他の有害事象は30日以内に報告することが求められる(具体的な期限については最新のHealth Canadaのガイダンスを確認することが推奨される)
  2. 問題解決報告(PSR:安全性に関わる問題とその解決策を文書化するもの
  3. リコール報告:回収の実施とその進捗状況の報告

外国製造業者に対する要件

カナダの医療機器規制における重要な特徴の一つは、外国製造業者に対して国内代理人(Canadian Representative)の設置を義務付けていない点である。これは欧州(EU MDR)や中国、ブラジルなど多くの国・地域で国内代理人が必須とされているのと対照的である。
この規制的特徴により、外国企業はカナダ国内に物理的な拠点や法的代表者を持たなくても、直接的に医療機器ライセンス(MDL)を申請することが可能である。ただし、実務上は現地の規制環境に精通したコンサルタントや代理人を活用することで、申請手続きや市販後対応をより円滑に進めることができる場合が多い。
また、外国製造業者はMDL申請時に品質マネジメントシステム証明書(ISO 13485認証など)の提出が求められ、2019年1月以降はMDSAP認証が必須となっている。

日本との規制比較

カナダの医療機器規制は、日本の薬機法(医薬品医療機器等法)による規制と類似点があるものの、重要な相違点も存在する。
両国ともリスクベースの分類システムを採用しているが、分類方法に大きな違いがある。日本では医療機器のクラス分類に「リスト方式」を採用しており、具体的な製品名や一般的名称に基づいて分類が決定される。一方、カナダでは欧州と同様に「ルール方式」を採用しており、医療機器の特性(侵襲性、使用期間、エネルギー供給など)に基づいた分類ルールによって区分される。
その他の主な相違点としては:

  1. カナダでは品質マネジメントシステムとしてISO 13485の認証が強く求められる
  2. 日本では「承認」という概念であるのに対し、カナダでは「ライセンス」という位置づけである
  3. 日本では製造販売業と製造業の区別があるが、カナダではMDELという単一の枠組みで管理されている
  4. カナダでは2019年からMDSAPが義務化されているが、日本ではMDSAP参加国ではあるものの任意である

最近の規制動向

近年、カナダでは医療機器規制の現代化に向けた取り組みが進んでいる。具体的には、以下のような動きがある。

  1. リアルワールドエビデンスの活用:実臨床データを活用した評価手法の導入
  2. 国際整合性の強化:2019年からのMDSAP完全義務化により、国際的な監査プログラムへの移行を完了。これにより、米国、ブラジル、オーストラリア、日本などの参加国との規制調和を促進
  3. AI・ソフトウェア医療機器への対応:人工知能を用いた医療機器の規制枠組みの整備
  4. MDEL フレームワークの見直し:Health Canadaは医療機器施設ライセンス(MDEL)フレームワークの近代化に取り組んでおり、申請プロセスの合理化や監視手法の改善などが検討されている
  5. 柔軟なライセンシングアプローチ:新たな医療技術の迅速な市場導入を支援するための柔軟な規制アプローチの検討

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