医療機器GMPからQSRへ移行した理由

今回は医療機器のGMP(Good Manufacturing Practice)がQSR(Quality System Regulation)に移行した背景について説明する。
医療機器は非常に多様であり、技術革新の速度も速いため、従来のGMPだけでは品質管理が十分に対応できなくなっていた。この課題に対応するため、アメリカのFDA(食品医薬品局)は、より包括的で効果的な品質管理を実現するために以下の段階的な移行を実施した。

– 1990年:Safe Medical Devices Act (SMDA)の制定
– 1993年:FDAがGMP改訂案を提案
– 1996年:QSR最終規則の公布
– 1997年:QSRの施行

医療機器と医薬品の品質保証の本質的な違い

医療機器は医薬品とは本質的に異なる特徴を持つ。
医薬品の場合、規格に従って正しく製造されれば、その品質は確保される。
しかし、医療機器においては、製造プロセスが完璧であっても、そもそもの設計に問題があれば、安全で有効な製品とはならない。
この違いは、医療機器の品質保証において設計管理が極めて重要である理由の一つである。

GMPは製造工程に重点を置いた基準であった

GMPはその名の通り、製造工程に基準を設けることを目的としており、製品が設計図通りに製造されているかを確保するための管理方法や工程管理に重点を置いていた。しかし、医療機器の品質を保証するには、製造だけでなく、設計段階からの品質管理が不可欠であることが明らかになった。

特に、設計の不備が製品の安全性や有効性に重大な影響を及ぼす可能性があるため、設計段階からの品質保証を制度化する必要性が高まっていた。

医療機器の設計不備が回収原因の多くを占めていた

医療機器は設計図通りに適切に製造されていても、設計自体に問題があれば安全な製品とはならない。例えば、設計段階でリスクアセスメントが不十分であったり、使用環境を考慮していない場合、重大な安全性や有効性の問題が発生する可能性がある。

FDAが1983年から1989年までに実施した調査によると、医療機器の回収事例の約44%が設計に関する問題であることが判明した。
この結果により、設計の不備が医療機器の安全性に与える影響が明確となり、GMPからQSRへの移行において、製造管理だけでなく設計段階からの品質管理が重視されることとなった。

「Safe Medical Devices Act」に基づく法改正

1990年に制定された「Safe Medical Devices Act(安全な医療機器法)」は、以下の重要な変更をもたらした。

  1. FDAに医療機器GMPに設計管理を含める権限を付与
  2. 医療機器の有害事象報告システムの確立
  3. 製造業者への品質システム要件の強化

この法律は、医療機器の安全性と有効性を向上させるための法改正であり、1996年のQSR導入の土台となった。

QSRの特長:品質管理の包括化

GMPは製造プロセスに重点を置いた基準で、主に製造方法や工程管理に焦点を当てていた。
一方、QSRには以下の特徴的な要素が含まれている。

  • 設計管理(Design Controls)の導入
  • CAPA(是正措置及び予防措置)システムの要求
  • マネジメントレビューの重要性の強調
  • リスクマネジメントの統合

これにより、医療機器の品質保証は「製造時の品質確保」から「製品ライフサイクル全体を通じた品質保証」へと進化した。

設計管理の導入による品質向上

QSRで設計管理(Design Control)が重視されるのは、設計段階から品質を確保することが非常に重要だからである。
設計管理は以下の要素を含む。

  • リスクアセスメント
  • 設計検証
  • 設計妥当性確認(Validation)
  • 変更管理

これらのプロセスにより、医療機器の安全性と有効性をより確実に確保することが可能となった。

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