力量表の重要性
力量表の重要性
力量表の目的は、
- 現状の各部門における各人材の力量の明確化
- 現状の各部門の人材の力量分布の明確化
- 業務に必要な力量の明確化
- トレーニングニーズの抽出
などである。今回は力量表の重要性について説明したい。
教育訓練とは
しばしば、教育訓練の実施や記録に関して不十分な企業を見かける。教育と訓練は別ものである。
教育は英語にすると“Education”であり、訓練は“Training”である。
例えば、自動車教習所において、学科教習は教育であり、路上教習は訓練である。
学科教習で交通法規や道路標識を覚えただけでは運転技能は身に付かない。
多くの企業では、教育の記録は保管しているが、訓練の記録を作成・保管していないケースが見受けられる。
実際に訓練を行っていないのかというと、そうでもない。多くの場合、先輩が後輩に現場で作業を教えているだろう。いわゆる徒弟制度である。さもなくば、作業を実施することは困難だろう。
教育のみではなく、訓練についても計画的に実施し、記録を残しておかなければならない。
力量とは
力量は、英語では“competence”という。
ISO 9000:2015「品質マネジメントシステム-基本及び用語」では、力量を以下の通り定義している。
3.10.4 力量(competence)
意図した結果を達成するために、知識及び技能を適用する能力。
ここで「知識」は教育によって身に付くだろう。問題は「技能」である。上述したとおり、技能は訓練(OJT:On the Job Training)を実施することによって身に付いていく。
しかしながら、力量の定義では、単に技能を身に付ければ良いのではなく「意図した結果を達成」しなければならないのである。
自動車の運転を例にして説明しよう。
構内教習を修了すれば一定の運転技術の基礎が身に付き、仮免許が与えられる。次に路上教習を実施し、より実践的な運転技術を習得することになる。これにより免許が与えられる。
しかしながら、免許を取得した直後は初心者マークである。
自動車の運転において「意図した結果」を安全運転とした場合、安全に運転できるためには多くの経験が必要となる。自動車をこすったり、ヒヤリハットを繰り返しながら、一人前のドライバーになっていくのである。
5年以上無事故無違反で運転し、経験を積んだ場合、ゴールド免許が与えられる。
つまり、力量を付けるためには「経験」が重要なのである。教育訓練のみでは力量は身に付かないことに留意されたい。
さらに、ゴールド免許を持っていても、運転をしなければ力量は維持できない。
筆者が監査で経験したのは、力量表を調査した際に、部課長が最も高い力量を持っているといった評価である。これはおかしい。
質問をすると、部長は5年以上も当該業務を担当したことがないという。上位者ほど力量が高いはずであるという思い込みは排除しなければならない。
力量表とは
企業では、力量表(Skill Map)を作成する必要がある。しかしながら、力量表を適切に作成できている企業は少ない。
力量の定義が、「意図した結果を達成」することであるため、知識や技能を持っているだけでは不十分である。
力量表において、以下の様な間違った評価項目を見かけることがある。
- 規制要件を理解している
- SOPを理解している
- 〇〇教育を受講した
などである。
これらは知識であって、力量ではなく、力量の評価としては不適切である。むしろどれも当たり前の事項である。
力量表の評価項目では、「〇〇ができる」という表現が適切である。
例えば、
- はんだ付けができる
- カシメができる
- 内部監査ができる
- リスクマネジメント計画書が作成できる
- リスクアセスメントが実施できる
などである。
また、評価においては5段階程度にするのが適切である。
5 – 他人に教えることができる
4 – 1人で実施できる
3 – 支援されて実施できる
2 – 訓練中
1 – 担当できない(担当しない)
などである。
実際に作業に携わるためには、4以上の評価がなければならないことは自明である。
力量表には、個人別力量表と部門別力量表の2通りがある。
個人別の力量表では、現在の力量を評価し、近い将来の目標を管理する。
部門別の力量表では、当該部門の要員全体の力量を一瞥できるようにしておく。
これにより、トレーニングニーズを抽出するのである。
気を付けなければならないのは、部門内の全員がすべての力量を持つ必要はないのである。
バランスをとり、計画的に必要な力量を網羅したトレーニング計画の立案が重要である。