改正GMP省令とデータインテグリティ責任者
改正GMP省令では、「あらかじめ指定した者」として、製造管理者の他、下記の12の責任者を置くことを要求している。
- 医薬品品質システム記録作成・保管責任者(第3条の3 第1項 第5号)
- 品質リスクマネジメント責任者(第3条の4)
- 外部委託業者管理責任者(第11条の5)
- バリデーション責任者(第13条)
- 変更管理責任者(第14条)
- 逸脱管理責任者(第15条)
- 品質等の情報および品質不良等の処理責任者(第16条)
- 回収処理責任者(第17条)
- 自己点検責任者(第18条)
- 教育訓練責任者(第19条)
- 文書および記録の管理責任者(第20条 第1項)
- データインテグリティ責任者(第20条 第2項)
データインテグリティ責任者
第20条 第2項は、データインテグリティの保証を要求している箇条である。
第20条 文書及び記録の管理
第2項
製造業者等は、手順書等及びこの章に規定する記録について、あらかじめ指定した者に、第8条第2項に規定する文書に基づき、次に掲げる業務を行わせなければならない。
一 作成及び保管すべき手順書等並びに記録に欠落がないよう、継続的に管理すること。
二 作成された手順書等及び記録が正確な内容であるよう、継続的に管理すること。
三 他の手順書等及び記録の内容との不整合がないよう、継続的に管理すること。
四 手順書等若しくは記録に欠落があった場合又はその内容に不正確若しくは不整合な点が判明した場合においては、その原因を究明し、所要の是正措置及び予防措置をとること。
五 その他手順書等及び記録の信頼性を確保するために必要な業務
六 前各号の業務に係る記録を作成し、これを保管すること。
「医薬品および医薬部外品の製造管理および品質管理の基準に関する省令の一部改正について」(薬生監麻発0428第2号:GMP施行通知)の3.逐条解説において、下記の通り解説されている。
第20条第2項関係
医薬品の製造業者等があらかじめ指定した者に行わせる医薬品製品標準書及びGMP省令第8条第1項の手順書並びに同令第2章に規定する記録の信頼性(いわゆるデータ・インテグリティ)の確保に係る業務について規定するものであること。
あらかじめ指定した者については、当該文書及び記録の種類、内容等に応じて、その信頼性の確保に関して熟知している職員を責任者としてあらかじめ指定し、その職責及び権限を含め、GMP省令第6条第4項の規定による文書に適切に定めておくことが求められる。
いわゆる裏マニュアル、二重記録等の不正な文書及び記録はもとより以ての外であるが、医薬品の製造関連の文書及び記録の信頼性の確保については、PIC/Sの関連ガイダンス文書PI 041 “GOOD PRACTICE FOR DATA MANAGEMENT AND INTEGRITY IN REGULATED GMP/GDP ENVIRONMENTS”等が参考になるものであること。
すべての手順書および記録においてデータインテグリティを確保することは容易くない。
改正GMP省令および逐条解説で要求している通り「データインテグリティ責任者」を1名置いたとしても、すべての製品、すべてのプロセスの記録について精査し、データインテグリティを保証することは困難であろう。
おそらくGMP組織全体にデータインテグリティ責任者を複数配置し、ステアリングコミッティなどを組織したうえで、データインテグリティの確保状態を確認することになるのではないかと思われる。
改正GMP省令の施行は本年8月1日である。
データインテグリティ責任者の指名とSOPの改訂を間に合わせる必要がある。
本邦においてはデータインテグリティに関するガイドラインが発出されていない
逐条解説において、PIC/Sの関連ガイダンス文書を参照する旨の記載がある。
しかしである。PIC/Sは規制当局の集まりであり、加盟国の規制要件や査察基準を統一する目的で組織されている。けっして製薬企業のための組織やガイダンスではない。
本来は、PIC/Sの要求事項等に従って加盟規制当局が規制要件等を整備し、企業に対して遵守を求めるのが筋ではないだろうか。
「医薬品品質システム」、「品質リスクマネジメント」、「リスクベースドアプローチ」、「データインテグリティ」といった21世紀における新たなGMPの要求事項はすべてFDAなど海外の規制当局が最初に提唱した概念である。
3極の1つを担う医薬品消費大国の日本が世界に通用する新しい概念の規制要件を提案できていないのは残念である。
また海外の後追いでそれらを省令に盛り込んでいる(改正GMP省令は16年ぶりの改正である)。 そのうえで、海外のガイドラインやPIC/Sを参照せよというのは理解に苦しむ。