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第2章 FDA査察の種類

2.1 FDA査察の基本分類

FDAの査察は、承認前査察(Pre Approval Inspection/PAI)、GCP査察、定期査察(承認後)、そして特別査察の4つに大きく分類される。これらの査察のうち、特に注目すべき点として、GCP査察は過去に実施された内容を確認する「過去形」の査察であるのに対し、GMP査察は将来の製造活動の適切性を評価する「未来形」の査察であるという特徴を持つ。

2.2 承認前査察(PAI: Pre Approval Inspection)

承認前査察は、医薬品製造施設のGMP遵守状況を調査する査察である。この査察は医薬品の安全性と有効性を保証するための重要なプロセスであり、製造施設が適切に医薬品を製造できることを確認し、申請書に記載されているデータの正確性と完全性を確保することを目的としている。

承認前査察は「未来形」の査察であることが特徴である。新薬を承認した場合、商業生産においては、当該の施設で治験薬製造と同じ品質で大量生産できなければならない。治験薬は研究者が少量を丹念に製造するため、当然品質が良くなる。しかしながら、商業生産においては、スケールが大きく、自動化システム等を使用して大量に生産することになる。そのため、治験薬と同等の品質を保証された医薬品が継続的に製造できることを確認する必要がある。

当然のことながら、技術移転が正しく実施され、プロセスバリデーションが実施され、あらゆる変動要因に対してプロセスが適切にコントロールされていることも確認される。さらに、従業員の教育訓練の状況や、内部監査、逸脱に対する処置、CAPAについても確認されることになる。

承認前査察は、新薬の申請だけでなく、既存薬の承認申請や新製造方法の承認申請などにも実施される。FDAのPAIでは主に以下の2つの主要項目が調査される。

第一に、製造施設の適合性である。承認前査察の目的は、製造施設が適切な製造手順(GMP)に従って安全で有効な医薬品を製造できることを確認することにある。そのため、FDAの査察官は製造施設の設備、人員、手順、記録などを調査する。具体的には、製造施設の構造と設備がGMPに適合しているか、製造に従事する従業員が適切な資格とトレーニングを受けているか、製造手順がGMPに適合しているか、そして製造記録が正確で完全であるかを確認する。

第二に、申請書の適合性である。承認前査察では、申請書に記載されているデータが正確で完全であるかも調査される。申請書には製造施設の概要、製造手順、製造記録などが記載されているが、FDAの査察官はこれらのデータが製造施設で実際に実施されていることを確認する。具体的には、申請書に記載されている製造施設の概要が正確か、申請書に記載されている製造手順が実際の製造プロセスと一致しているか、そして申請書に記載されている製造記録が正確で完全であるかを調査する。

2.3 GCP査察(Clinical Trial Inspection)

GCP査察は、医薬品の臨床試験の実施状況を調査する査察である。この査察には、全てのNDAに対して実施される定例的査察(Routine Inspection)と、対処すべき問題が発覚した時に実施される意図的査察(Directed Inspection)があり、いずれもGCP適合状況が評価される。

米国内におけるFDAのGCP査察は、原則として査察対象者への事前の通知なしに実施される。査察官は査察対象者の施設を訪問し、臨床試験の記録や資料を調査する。また、査察対象者に質問やインタビューを行うこともある。

FDAのGCP査察においては、臨床試験の計画、臨床試験の実施、臨床試験のデータの管理、そして臨床試験の倫理面が調査される。GCPの要求事項として、科学的に適切であることに加えて、倫理的にも適切でなければならないという点が重要である。例えば、インフォームドコンセントが正しく行われているか、同意取得が適切に実施されているかといった点も倫理面での重要な確認事項となる。

定例的査察は、通常、NDA申請後6ヶ月以内に実施され、査察期間は約1週間、査察先の医療機関は第III相試験実施施設の中から3~4施設が選ばれて行われることが多いのが特徴である。査察対象は治験責任医師、スポンサー、CRO、IRB等であり、GCP適合状況が評価される。

査察後、査察レポートが作成され、OAI(Official Action Indicated:重大な違反があり、公的な処分が必要)、VAI(Voluntary Action Indicated:いくつかの欠陥や問題があり、自発的な対応が必要)、NAI(No Action Indicated:問題なし)の3段階で評価される。それを基にDSIが当該治験施設のデータを受け入れるか否かを検討する。

その他にも、FDAは以下の場合に意図的査察を実施する。医薬品開発に関する苦情や告発があった場合、臨床試験の実施状況を監視するため、医薬品開発に関する国際的な協力の一環として、また、IND中に問題が見つかった場合や治験関係者、被験者等から苦情を入手した場合等に即時に実施される。近年、このような意図的査察は増加傾向にある。

2.4 定期査察

定期査察は、従来は2~3年おきに実施されてきた。しかし最近では、サイト選択モデル(SSM)によるリスクベースドでの実施に変更されている。

FDAはSSMを使用して、リスクベースの要因を使用してカタログ内の全ての施設のスコアを計算する。このスコア計算には六つの要因が考慮される。

まず、製品固有のリスクを評価する。異なるタイプの製品は、剤形、投与経路、または製品が無菌であることが意図されているかどうかなどの特性に基づいて、異なるレベルのリスクを持つ。例えば、無菌の注射可能な医薬品を製造する製造施設は、経口カプセルを製造する施設よりも固有の製品リスクが高くなる。また、抗がん剤、抗ウイルス薬、向精神薬、麻薬、ワクチン、血液製剤などは特にリスクが高い製品として評価される。

次に、施設のタイプによってもリスクレベルが異なる。施設が実施する操作によって、リスクの程度は変化する。例えば、医薬品や有効成分を製造する施設は、医薬品のみを包装する施設よりもリスクが高くなる。

三つ目の要因として、患者の被ばくが考慮される。施設が製造する製品が多ければ多いほど、患者はその施設で製造された製品に遭遇する可能性が高くなる。これは、製造された製品の数と種類の両方を指す。多くの製品を製造する施設は、少数の製品を製造する施設よりも曝露係数が高くなる。

四つ目は査察履歴である。以前に査察されたときに確立された品質基準を満たしていない施設は、過去に基準を満たした施設よりもリスクが高いと見なされる。

五つ目として、最後の査察からの時間が評価される。施設が最後に査察されてからの時間が長くなるにつれて、再査察の必要性と同様に、確立された品質基準を満たさない可能性があるリスクが高まる。

最後に、ハザードシグナルが考慮される。製品のリコールや、施設に関連する品質問題に関する製造業者または患者の報告などのイベントは、主要なハザードシグナルが少ないかまったくない施設と比較して、リスクスコアが高くなる。

2.5 特別査察(For Cause Inspection)

特別査察は、何らかの理由があって、トリガーがあって行われる査察である。例えば内部告発があった場合、または大きな改修があった場合、市場で事故があった場合などに行われるのが、この特別査察と呼ばれるものである。

2.6 米国外査察の動向と制限

FDA査察の受け入れについて、重要な点が定められている。日本から米国へ医薬品とか医療機器を輸出する品目を持つ場合は、FDA査察を拒否することはできない。これは理由のいかんを問わず拒絶することができない絶対的な規定である。

さらに注意すべき点として、FDAにレジストレーション(製品登録)をした段階で、まだ1台たりとも1錠たりとも米国に輸出していない状態であっても査察が行われる可能性がある。レジストレーションした段階で、本当に医薬品が流通しているかどうかに関係なく、医療機器が流通しているかどうかに関係なく査察の対象になってしまう。

万が一、理由のいかんを問わずFDA査察を拒絶した場合、当該製造所の製品は「Adulterated Product」(粗悪品)というレッテルが貼られ、通関できなくなってしまう。

米国外に対するFDA査察は年々厳しさを増してきている。2009年、これは2009年というのはオバマ政権ができた年であるが、この時期を境にWarning Letterの発行数は倍増している。興味深いことに、民主党政権になるとWarning Letterが増える傾向があり、共和党政権になるとWarning Letterは減少する傾向が見られる。これはFDAの長官が大統領によって任命されるためで、大統領が変わることによってFDAの厳しさ、審査の厳しさ、あるいは査察の厳しさも変化してくるという現象が確認されている。

また、ISO-9001やISO-13485(医療機器は13485)を取得していても、FDAから指摘されることが多々ある。FDAの査察に対応するためには、最新のWarning Letterの傾向を分析しておく必要がある。FDAの査察傾向は時期によって変化する。例えば、近年ではデータインテグリティ査察が重要視されてきている。

FDAは過去の変遷で様々な重点項目があり、様々な指導を行っている。そういったものはコンプライアンスプログラムや規制要件には実は明確には書かれていないものの、Warning Letterなどを見ることによって把握する必要がある。

さらに、サプライチェーンのグローバル化がFDA査察に大きな影響を与えている。FDAは品目の増加に伴って、米国内でも国内査察でも定期的に実施できていない現状がある。本来は、例えば医薬品の定期査察というのは法律で決まっていて、2年から3年に一度行わなければならないとされていた。

ところが、サプライチェーンがグローバル化し、原薬や原料を海外から輸入し、製剤も医療機器も海外から輸入するようになった。そうすると、国内査察もままならない中で、海外にも査察に行かなければならなくなった。これは大変な状況である。

このような状況に追い打ちをかけたのが、2008年のヘパリンナトリウムの副作用事件である。この事件では少なくとも米国内で81名の方が亡くなったとされている。この事件の背景には、原料となるブタの価格高騰があり、中国の原薬工場がHPLCのピークがよく似た物質を混ぜるという不正を行った。これにより、アナフィラキシーショックによって多くの死者が出る事態となった。

この事件でFDAのOfficerが議会に招致され証言を求められた結果、FDAはこの原薬を輸出した中国の製薬企業を一度も査察していなかったことが明らかとなった。これが非常に問題となり、FDAは国内や日本、ヨーロッパばかりでなく、もっと後進国である中国やインドなどにも査察を行うべきであるという指摘を受けることとなった。

今後FDAは、医薬品はPIC/S、医療機器はMDSAP(Medical Device Single Audit Program)によって相互査察を実現しており、グローバルに査察官を送りたい意向である。

実はFDAから議会に嘆願書が上がり、2年から3年に一度の査察という法律上の規定を外すことを要請した。その結果、サイト・セレクション・モデル(SSM)というモデルを使用して、リスクベースで査察先を決定することが可能となった。このため、現在では2年または3年に一度必ずFDAが来るということではなくなっている。

このような状況において、企業がFDAの査察官に安心感を与えるためには、以下の要件を満たすことが重要である:

高いスキル、経験、洞察力を持った監査員が存在し、内部監査(Self Inspection)が適切に実施されていることが必要である。内部監査の指摘に対してCAPAを実行し、常に改善を図っていることが求められる。また、品質システムが有効に機能しており、その証拠が揃っていることが必要である。

さらに、FDA査察官の質問に自信(根拠)を持って回答し、適切な資料で説明ができることが重要である。そのためには、CFRを完全に理解すること(行間を読み解くこと)、自社のQMS(手順書)をよく理解すること(自身の担当分について、査察時に探しているようではいけない)、QMS(手順書)と整合した記録を速やかに提示できるように整理しておくことなどが不可欠である。

コンプライアンス達成のための内部統制として、規制要件は医薬品・医療機器企業のトップ(経営者)に向けて発出されていることを理解する必要がある。これは従業員向けではない点が重要である。企業のトップは自社のポリシー(品質マニュアル)を作成し、そのポリシーを自社の従業員に周知徹底させなければならない。つまり従業員は、自社のポリシー(品質マニュアル)を遵守することが求められる。これがCorporate Governance(内部統制)の本質である。

実際のFDA査察に際しては、査察官が製造所に入る前に品質マニュアルを英訳して送ることが求められる。これは、査察官がその企業がどのような品質マニュアル、すなわちどのようなポリシーで普段業務を行っているかを理解してから査察に来るためである。

したがって、従業員は品質マニュアルを遵守することが求められ、品質マニュアルに記載されていないことを手順書(SOP)の中に書いて実行することは不適切である。品質マニュアルは規制要件を遵守したものでなければならず、品質マニュアルに従ったSOPを構築しなければならない。

企業によって品質マニュアルが異なる理由は、企業ごとに製造している製品、販売している製品が異なるためである。製品が異なればリスクも異なり、製造工程も異なる。例えば、滅菌だけを行う企業もあれば、包装表示だけを行う企業もあり、保管だけを行う企業もあれば、全ての工程を行う企業もある。

したがって、自社の製品、自社のプロセスに従った品質マニュアルをまず構築することが経営者の責任となる。それに基づいて管理責任者が手順書を構築し、それを守ることが求められる。このようなトップダウンの方法をコーポレートガバナンス、内部統制と呼ぶのである。