1. はじめに
医療機器の品質管理においては、QMS省令(厚生労働省令第169号)、薬機法(医薬品医療機器等法)、およびISO 13485:2016が主要な規制枠組みとなる。
2. 文書作成・承認者の要件
2.1 法規制上の要求事項
2.1.1 QMS省令(厚生労働省令第169号)
第8条(文書管理) において、以下が求められている。
- 文書の発行前に適切性について照査すること
- 適切な者が承認すること
- 文書の変更についても同様に照査・承認すること
ただし、承認者の具体的な資格要件(学歴、経験年数等)については明示されていない。
第23条(教育訓練) では、以下を要求している。
- 業務に従事する者に必要な力量を明確にすること
- 必要な教育訓練を実施すること
- 教育訓練の記録を維持すること
- 責任技術者への文書報告
2.1.2 責任技術者の資格要件
医薬品医療機器等法施行規則第114条の52に基づき、製造業の責任技術者には以下の資格要件がある。
| 医療機器クラス | 資格要件 |
| 高度管理医療機器 | 大学等で物理学、化学、生物学、工学等を専攻し卒業後3年以上の実務経験、または製造業務5年以上+講習修了 |
| 管理医療機器 | 高校等で物理学、化学、生物学、工学等を専攻し卒業後3年以上の実務経験 |
| 一般医療機器 | 高校等で物理学、化学、生物学、工学等を専攻し卒業後3年以上の実務経験 |
ただし、個々の文書(設計文書、製造文書等)の承認者の具体的な資格要件は規定されていない。
2.1.3 ISO 13485:2016
4.2.4(文書管理) において
- 「権限を与えられた者」による承認を要求
- 具体的な資格要件は組織が定めることとされている
- 文書の変更は「最初に承認した部署又は指名した部署」が承認
2.2 実務上の対応
法規制で具体的な資格要件が明示されていないため、以下の対応が重要となる。
- 力量基準の明確化: 各文書カテゴリの作成者・照査者・承認者に求める力量を自社で定義
- 教育訓練計画: 定義した力量を満たすための教育訓練プログラムの策定と実施
- 記録の維持: 力量評価、教育訓練実施の記録を維持
- 取決め書への反映: 製造販売業者との取決め書において承認者要件を明確化
3. 設計移管後の変更管理
3.1 「設計移管」の正しい理解
設計移管(Design Transfer)について、以下の概念を正しく区別することが重要である。
| 用語 | 定義 | 備考 |
| 設計移管 | 設計バリデーション済みの設計出力を製造仕様書(DMR)に落とし込むプロセス | QMS省令第35条の2 |
| 量産移行 | 試作から量産体制への移行 | 設計移管とは別概念 |
| 設計権限の移転 | 設計管理の責任を他者に移すこと | 設計移管≠設計権限の移転 |
重要: 設計移管は「設計権限の移転」ではない。設計移管後も設計管理の最終責任は製造販売業者に残る。
3.2 変更管理の責任分担
設計移管後の変更管理責任は、契約形態と変更の性質によって異なる。
| 変更の種類 | 一般的な責任部門 | 製造販売業者の関与 |
| 設計変更(仕様・図面の変更) | 製造販売業者の設計管理部門、または契約により登録製造所の設計部門 | 最終承認必須 |
| 製造工程の変更 | 登録製造所の製造部門 | 報告・承認必要 |
| 軽微な製造条件変更 | 登録製造所 | 取決め範囲内で実施可能 |
3.3 設計履歴ファイル(DHF)の管理
3.3.1 DHFの定義
設計履歴ファイル(Design History File)とは、医療機器が規律ある設計管理の下で設計されたことを証明する、管理された記録の集合体である。
3.3.2 DHFに含まれる項目
- 設計入力・設計出力
- 設計検証・設計妥当性確認の証拠
- 設計レビュー記録
- 設計移転の証拠
- 変更記録(変更要求、影響評価、承認、再テスト)
3.3.3 変更管理の最小要件
DHFにおける変更管理として、以下が最低限必要である。
- 影響評価: 要求事項、リスク管理、検証要求への影響分析
- 証拠の更新: 再検証・再妥当性確認の実施と記録
- トレーサビリティの更新: トレーサビリティマトリックスの維持
- 承認記録: 文書化された承認の保存
警告: 変更管理が不十分だと、DHFが陳腐化し、現在の設計と文書の乖離が生じる。
4. 実務上の重要事項
4.1 製造販売業者との取決め書
QMS省令第72条の2に基づき、製造販売業者との間で以下の事項を文書化した取決めを締結することが重要である。
4.1.1 文書管理に関する取決め事項
- 設計文書・製造文書の作成者・照査者・承認者の要件(力量、教育訓練)
- 承認権限の範囲
- 製造販売業者への報告・承認が必要な文書の範囲
- 文書の保管期間と保管方法
4.1.2 変更管理に関する取決め事項
- 設計変更の提案・実施の権限範囲
- 変更の分類基準(重大変更/軽微変更)
- 承認プロセスとタイムライン
- 規制当局への届出・申請が必要な変更の取扱い
4.1.3 DHF管理に関する取決め事項
- DHFの維持管理責任の所在
- DHFへのアクセス権限
- 定期的なDHFレビューの実施
4.2 製造販売業者の最終責任
以下の点を常に認識しておく必要がある。
- 設計管理の最終責任は製造販売業者にある
- 登録製造所が設計変更を行う場合も、製造販売業者の承認が必要
- 規制当局への届出・申請は製造販売業者の責任
5. 規制当局への届出・申請
5.1 製造販売承認事項の変更
変更内容に応じて、以下の手続きが必要となる。
| 変更内容 | 手続き | 期限 |
| 重要な変更(効能効果、性能、重要な構造・製造方法) | 一部変更承認申請 | 事前承認が必要 |
| 軽微な変更(製造所移転、軽微な仕様変更) | 軽微変更届出 | 変更後30日以内 |
5.2 判断基準の共有
取決め書において、どの変更が承認申請または届出を要するかの判断基準を製造販売業者と共有しておくことが重要である。
6. 結論と推奨事項
6.1 結論
- 文書承認者の資格要件: 法規制上、具体的な資格要件は明示されていない。組織が力量基準を定め、教育訓練を通じて維持することが求められる。
- 設計移管後の変更管理: 設計移管は設計権限の移転ではない。設計管理の最終責任は製造販売業者に残り、登録製造所は取決めの範囲内で変更管理を行う。
- DHFの重要性: 設計移管後もDHFの維持管理責任を明確にし、変更管理を適切に行うことが品質保証上不可欠である。
6.2 推奨事項
- 取決め書の充実: 文書管理、変更管理、DHF管理に関する詳細な取決めを製造販売業者と締結する。
- 力量管理システムの構築: 文書作成・承認者の力量基準を明確化し、教育訓練プログラムを整備する。
- 変更管理手順の明確化: 変更の分類基準、承認プロセス、規制対応を含む変更管理手順書を整備する。
- 定期的なDHFレビュー: DHFの完全性と最新性を確保するため、定期的なレビューを実施する。
- トレーサビリティの維持: 設計変更時にトレーサビリティマトリックスを更新し、要求事項との整合性を確保する。
参考法令・規格
- QMS省令(厚生労働省令第169号)
- 医薬品医療機器等法(薬機法)
- 医薬品医療機器等法施行規則
- ISO 13485:2016 医療機器-品質マネジメントシステム-規制目的のための要求事項