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GMPが作られた理由
米国でGMPが制定された主な理由は、サリドマイド事件がきっかけであった。

1962年に発生したサリドマイド事件は、GMPの制定に大きな影響を与えた。この事件では、妊婦が服用したサリドマイドという薬剤によって、胎児に先天異常や死亡といった深刻な被害が生じた。

サリドマイド事件

サリドマイド事件は、1950年代末から1960年代初めにかけて世界中で発生した深刻な薬害事件である。サリドマイドは、1950年代末から60年代初めにかけて、世界40カ国以上で販売された鎮静・催眠薬だった。
妊娠初期にこの薬を服用すると、胎児の手足、耳、内臓などに奇形を引き起こす副作用(催奇形性)があることが判明した。 世界で数千人から1万人、日本では約1000人の胎児が被害を受けたと推定されている。日本では309人の被害者が公式に認定された。

米国における被害
Richardson-Merrell社(後のRichardson Vicks社)は、約250万錠のサリドマイドを1,200人以上の医師に配布し、「臨床試験」と称して無料で提供した。
これらの「臨床試験」は、適切な記録もなく、様々な用量や製剤、色で行われた。
動物実験を完全にスキップし、直接人体実験を行ったことも問題だった。
FDAは全体として、サリドマイドがどれほど広く米国で入手可能だったかについて、適切な調査を怠った。
米国政府は現在に至るまで、被害者への補償を行っていない。

フランシス・ケルシー博士

カナダ人であるフランシス・ケルシー博士は、サリドマイド事件において極めて重要な役割を果たした。
ケルシー博士は、FDAの新薬審査官として1960年にサリドマイドの承認申請を担当した。
彼女は、サリドマイドの安全性に関する十分なデータがないとして、約1年間にわたり承認を拒否し続けた。
製薬会社からの強い圧力にもかかわらず、彼女は科学的な根拠に基づいて判断を下し続けた。
ケルシー博士の慎重な審査姿勢により、サリドマイドは米国で正式に承認されることはなかった。
これにより、米国では大規模なサリドマイド被害を防ぐことができた。
彼女の判断は、後にサリドマイドの催奇形性が明らかになったことで正当化された。
後年、ケルシー博士は、FDAの治験調査部門の責任者となり、臨床試験の監督を行った。
彼女は90歳でFDAを退職するまで、45年間にわたって医薬品の安全性確保に尽力した。
フランシス・ケルシー博士の勇気ある判断と科学的な厳密さは、多くの人々の命を救い、医薬品規制の歴史に大きな影響を与えた。
彼女の功績は、医療における女性の重要な役割を示す象徴的な例となっている。
フランシス・ケルシー博士は2015年8月7日に101歳で亡くなられた。
筆者は生前にDIAでのサプライズゲストとして紹介された際に拝見したことがある。

会場全体がスタンディングオベーションに包まれたことを今でも記憶している。ケルシー博士は英雄であるからだ。

その後の対応

サリドマイド事件を契機に、1962年に米国の医薬品規制法が大幅に改正された。
新しい規制では、医薬品の安全性だけでなく有効性も証明することが求められるようになった。

  1. FDC法(連邦食品・医薬品・化粧品法)の改正
  2. 1963年にGMPの法制化

つまり、議会がFDC法を改正し、FDAに対してGMP(医薬品の製造基準および品質管理基準)を作ることを命じたのである。

米国でGMPが制定された主な目的は以下の通りである。

  1. 人為的ミスの防止
  2. 医薬品の汚染や品質低下の防止
  3. 高い品質を保証するシステムの設計

これらの目的を達成することで、安全で高品質な医薬品を消費者に提供するための枠組みを確立しようとしたのである。
米国でのGMP制定は、その後の世界的な動きにも影響を与えた。
1969年にはWHOの総会で加盟各国にGMP証明制度の採用が勧告され、これにより医薬品GMPの法制化が世界各国に広がった。
このように、サリドマイド事件を契機として米国で制定されたGMPは、医薬品の製造管理と品質管理に関する重要な基準となり、世界的な医薬品の安全性向上に大きく貢献することとなったのである。

サリドマイドの現在

ササリドマイドは、かつての薬害事件から大きく状況が変化し、現在では以下のような状況にある。

  • 1998年にハンセン病治療薬として米国で再承認を受けた。
  • 2008年には日本でも多発性骨髄腫の治療薬として承認された。
  • 多発性骨髄腫の他、ハンセン病、結核やエイズに伴う体重減少、糖尿病性網膜症などにも効果が報告されている。
  • 年間売上が1兆円を超える超大型医薬品となっている。
  • 厳格な管理システムの下で使用されている。日本では「サリドマイド製剤安全管理手順(TERMS)」が導入されている。
  • サリドマイドの作用メカニズムの解明が進み、新たな創薬技術の開発にもつながっている。
  • 催奇形性を軽減しつつ、抗血液がん作用を維持した新規サリドマイド誘導体の開発が進められている。
  • サリドマイド誘導体を用いた次世代治療薬PROTACの開発が進んでいる。
  • このように、サリドマイドは厳重な管理下で有用な医薬品として使用されるとともに、新たな医薬品開発の基盤技術としても注目されている。

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