質問者のKainoです。ご教示いただきありがとうございます。今回の問題となっている製造所が特殊で、原薬中間体のみを製造しております。従いまして「次製品の1日最大投与量」が算出不可能です(その理由は、原薬中間体は投与されることがないためです)。そのため、ご教示いただきましたTTCアプローチまたはPDEから、洗浄の基準を設定するのが難しいと感じております。
また、私の質問の文面が悪くて申し訳ございませんでした。実際には、出発物質→反応物A→反応物B→原薬中間体 という合成経路になっており、Ames陽性となっているのが反応物A及びBで、最終的に得られる原薬中間体はAmes陰性です。 反応物AまたはBの合成で使用した反応窯を洗浄する際、反応物AまたはBの残留を確認することにしておりますが、その際の洗浄の基準をどうするのがよいか悩んでおります。もし可能でございましたら、追加のご教示をいただけますと幸いです。
Ames陽性物質は変異原性および発がん性リスクを持つため、従来の基準(0.1%基準、10 ppm基準)では不十分です。
Ames陽性の原薬中間体の洗浄許容残留値を設定する際には、TTCアプローチや健康ベースの曝露限界(HBEL)に基づく包括的なリスクアセスメントが必要です。これに基づき、適切な洗浄プロトコルを設定し、その有効性をバリデーションすることで、患者の安全性を確保しつつ、科学的根拠に基づいた管理が可能となります。具体的な数値の設定に関しては、製品特性や製造条件を考慮した個別の評価が必要であり、製造設備や工程に応じて適切な対応が求められます。
1. 許容残留値の設定方法
a) TTCアプローチによる基準値の算出
- TTC (Threshold of Toxicological Concern) アプローチ: ICH M7ガイドラインに基づき、Ames陽性物質に対してTTCアプローチを使用し、曝露リスクを評価します。一般に、変異原性物質の許容曝露量は1.5 μg/人/日とされています。
- 具体的な計算方法: 次製品の1日最大投与量をDmax (g)とすると、許容残留値は以下の通りに算出されます。
許容残留値=1.5 μg/日 / Dmax(g/日)
例:次製品の1日最大投与量が1 gの場合、許容残留値は1.5 ppmとなります。
b) 健康ベースの曝露限界(HBEL)の考慮
- 毒性データに基づくリスクアセスメント: Ames陽性物質に関する既存の毒性データを考慮し、曝露限界(PDE: Permitted Daily Exposure)を算出します。物質の特性(例えば、慢性毒性、変異原性、発がん性のデータ)を評価し、必要に応じてTTCよりも厳格な基準を設定します。
- リスク評価: 製品の投与経路(経口、注射など)や患者集団(小児、成人、慢性疾患患者など)を考慮して、曝露リスクの評価を行います。患者の安全性を最優先とし、最もリスクが低くなるように設定します。
2. 洗浄プロトコルの最適化
a) 洗浄剤と洗浄条件の選定
- 洗浄剤の選定: Ames陽性物質を効果的に除去できる洗浄剤(例えば強酸、強アルカリ、界面活性剤など)を選定します。物質の物理化学的特性(溶解性、安定性など)に基づき、適切な洗浄剤を選びます。
- 洗浄条件の最適化:
- 洗浄時間と温度: 洗浄剤の種類と洗浄設備の特性に応じて、洗浄時間および温度を最適化します。
- 洗浄回数: 物質の残留レベルが許容残留値を下回るまで洗浄を繰り返します。
- 物理的洗浄: 必要に応じて、物理的な力(例えば高圧洗浄)を併用し、効果的に残留物を除去します。
b) 洗浄手順の標準化とバリデーション
- 洗浄バリデーション: 設定した洗浄プロトコルが実際にAmes陽性物質を許容残留値以下に除去できることを確認するために、洗浄バリデーションを実施します。
- サンプリング方法: スワブ法やリンスサンプリング法を用いて、設備表面から残留物を採取します。
- 分析方法: 高感度な分析法(例えば、HPLC、LC-MSなど)を使用し、設定した許容残留値を十分に評価できるようにします。分析法の定量限界(LOQ)は許容残留値の1/10以下であることが望ましいです。
- 再バリデーション: 定期的に洗浄プロセスの再バリデーションを実施し、プロセスの一貫性と有効性を確認します。変更管理の一環として、新たな物質や製品が加わった場合にも再バリデーションが必要です。
3. 有効性の確認方法
- 残留物の分析: 洗浄後の残留物質を定量的に評価し、統計的手法を用いてデータを解析します。標準偏差や信頼区間を計算し、プロセスの安定性を確認します。
- 定期的なモニタリングプログラム: 製造ラインの運用中における洗浄プロセスの有効性を確認するため、定期的にモニタリングを行います。これにより、洗浄プロトコルが継続的に効果的であることを保証します。
4. 文書化と管理
- リスクアセスメントの文書化: 許容残留値の設定に至るリスクアセスメントプロセスを詳細に記録し、規制当局や内部監査で参照可能な形で保管します。
- 洗浄バリデーション報告書の作成: 洗浄プロトコルのバリデーション結果をまとめた報告書を作成し、継続的な監視と改善に役立てます。
- 定期的なレビューと更新: 科学的知見や規制要件の変化に応じて、洗浄プロセスとリスクアセスメントを定期的に見直し、必要に応じて更新します。
5. 追加的な考慮事項
- 製造設備の材質や構造: 残留物質が付着しにくい材質(例えばステンレススチール)や、洗浄しやすい構造の設備を選定します。
- 洗浄後の乾燥条件: 洗浄後に設備が適切に乾燥されることを確認し、残留水分がない状態で次の製品の製造に移行します。水分が残留すると、次製品の品質に影響を与える可能性があります。
- 次工程製品の特性: 次に製造する製品の投与経路(例えば注射剤など)に基づき、より厳格な基準を適用する必要があります。
ご説明ありがとうございます。状況がより明確になりました。
原薬中間体専門の製造所であり、Ames陽性の反応中間体(反応物A、B)の製造設備の洗浄基準について、より具体的にアドバイスさせていただきます。
1. 基本的な考え方
– 原薬中間体製造所特有の状況を考慮する必要があります
– 最終製品の投与量が不明なため、TTCアプローチの直接適用は困難です
– 反応物A、Bは工程中間体として消費され、原薬中間体はAmes陰性という状況です
2. 推奨される洗浄基準の設定アプローチ
a) 科学的根拠に基づく基準値
– 反応物A、Bの次工程への持ち込み量を考慮
– 次工程での反応による分解・消失も考慮
– 分析法の定量限界を考慮
b) 具体的な基準値の提案
– 反応設備の表面積あたりの残留量として設定
例:1 μg/cm²以下
– または設備容量あたりの濃度として設定
例:0.1-1 ppmの範囲で設定
3. 基準値設定の根拠
a) 工程特性の考慮
– 次工程での反応による分解効率
– 反応物A、Bの反応性と安定性
– 工程間の物質収支
b) リスク評価
– 最悪ケースシナリオの想定
– 工程間の希釈率の考慮
– クロスコンタミネーションのリスク評価
4. 具体的な管理方法
a) 分析法の確立
– スワブ法またはリンス法の選択
– 適切な定量限界の設定
– 回収率の評価
b) サンプリング方法
– ワーストポイントの特定
– 代表点のサンプリング計画
– 統計的な評価方法
5. 追加的な管理戦略
– 反応物A、B合成後の専用の洗浄手順の確立
– 作業者の安全確保対策
– 廃液処理を含む環境対策
このような状況下での具体的な基準値設定について、以下の質問に回答いただければ、より詳細なアドバイスが可能です。
1. 反応物A、Bの次工程での反応効率はどの程度でしょうか?
2. 現在の分析法の定量限界はどの程度でしょうか?
3. 反応設備の材質や構造に特殊な点はありますか?
4. 現在の洗浄方法で、どの程度の残留レベルまで達成可能でしょうか?
これらの情報をお聞かせいただけますと、より具体的な基準値の提案が可能となります。