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「出荷判定」という用語は、薬機法やQMS省令において明示的に定義されていません。これは国際規格ISO 13485との整合性を図る立法技術によるもので、用語の直接定義よりもプロセスベースの要求を重視する設計思想に基づいています。
しかし、実務上の出荷判定は、複数の法令要求事項を統合的に解釈・適用することで、明確な法的根拠を持つ品質保証プロセスとして構築されています。
法的根拠となる規定群
1. QMS省令における中核的条項
第58条(製品の監視測定)
- 要求事項
- 製品が製品要求事項を満たしていることを検証するための監視測定の実施
- 製品リリース(出荷)前の製品要求事項への適合の証拠の保持
- 実務への適用:製造記録・試験結果の総合評価が必須
第60条(不適合製品の管理)
- 要求事項
- 要求事項に適合しない製品の誤使用又は誤った引渡しを防ぐための識別・管理
- 不適合品の隔離、特別採用時の厳格な手続き
- 実務への適用:出荷可否判断プロセスの文書化が必須
第72条(品質管理監督システムに係る追加要求事項)
- 要求事項
- 品質業務責任者によるロットごとの出荷記録作成
- 電子署名等によるトレーサビリティの確保
- 実務への適用:品質保証部門による最終承認プロセスの確立
2. ISO 13485との整合性
8.2.6項(製品のリリース)
- 計画した取決めが満足に完了するまで、製品のリリース及びサービスの提供を行わない
- リリースを正式に許可した人を記録で特定する
日本企業の約98%がISO 13485認証取得を前提に運用しており、国際規格の要求事項が実質的な業界標準となっています。
実務における出荷判定の構成要素
1. 判定の拠り所となる文書体系
品質標準書・製品標準書
- 各製品の規格及び試験方法の明文化
- 出荷可否の判定基準の設定
- 逸脱許容基準の明確化
製造管理・品質管理に関する手順書
- 工程パラメータの監視要領
- 検査機器の校正管理
- 出荷判定の実施手順と責任・権限
変更管理システム
- 設計変更の影響評価
- 再バリデーション要件の設定
2. 出荷判定における主要確認項目
製造プロセスの適切性
- 製造指図書に基づく製造の実施確認
- 工程内検査結果の適合性
- 製造環境の適切性(清浄度、温湿度等)
- 製造設備の適格性確認状態
品質試験結果の適合性
- 最終製品検査の合格
- 規格試験結果の適合性
- 安定性データの確認(必要に応じて)
使用材料・部品の適合性
- 原材料・部品の受入検査結果
- サプライヤー管理記録
- 材料証明書の確認
記録の完全性
- 製造記録の完全性・整合性
- 電子記録の改ざん防止機能(21 CFR Part 11準拠)
- トレーサビリティの確保(最低5年間の記録保持)
変更・逸脱管理の状況
- 変更管理の適切な実施
- 逸脱発生時の影響評価と是正措置
- 必要に応じた再バリデーションの実施
3. 出荷判定の実施体制
品質保証部門の役割
- 製造部門からの独立性の確保
- 出荷可否の最終判断権限
- 不適合品の処置決定
判定責任者の要件
- 適切な教育訓練の実施
- 判定権限の明確化
- 利益相反の排除
実務上の留意点
1. プロセスアプローチの重要性
出荷判定は単一の行為ではなく、QMS全体の中で機能する統合的なプロセスとして理解し、構築する必要があります。
2. リスクベースアプローチ
製品のリスククラスや使用目的に応じて、出荷判定の厳格性を調整することが重要です。
3. 継続的改善
出荷判定プロセスの有効性を定期的に評価し、必要に応じて改善を図ることが求められます。