はい、SOP等における旧QSR §820.3の用語定義の引用は見直しが必要です。
QMSR施行(2026年2月2日)に伴い、旧QSR §820.3に規定されていた約30の用語定義は全面的に改組されました。
旧§820.3の(a)~(dd)に直接定義されていた用語体系は廃止され、新§820.3はISO規格の定義をベースラインとする全く異なる構造に変更されています。
以下、その理由と具体的な対応のポイントを整理します。
1. 用語定義体系の根本的な変更:4階層の優先順位
新QMSR §820.3は、用語定義について以下の4階層の優先順位を規定しています。
FDAのCDRH(Tonya Wilbon氏)による公式プレゼンテーション資料もこの構造を示しています。
【最優先】第1階層:FD&C Act §201の法定用語
- 820.3(b)の第一文は、FD&C Act(連邦食品医薬品化粧品法)§201に定義される全ての用語がQMSRに適用され、ISO 13485の対応用語に優先する(supersede)と規定しています。
例:
- FD&C Act §201(h)の「device」→ ISO 13485の「medical device」に優先
- FD&C Act §201(m)の「labeling」→ ISO 13485の「labelling」に優先
【第2階層】§820.3(b)のISO定義上書き用語
- 820.3(b)の第二文以降では、ISO 13485またはISO 9000の定義と異なる解釈をFDAが示す用語が個別に規定されています。これらはISO規格の対応する定義を明示的に上書き(supersede)します。
- 820.3(b)で確認されている上書き用語には以下が含まれます:
| 用語 | QMSR §820.3(b)での定義・取扱い |
| Implantable medical device | §860.3における「implant」の定義を適用 |
| Manufacturer | 旧QSR §820.3(o)の定義を踏襲しつつ修正(契約滅菌、据付、再表示、再製造、再包装、仕様策定を含む) |
| Rework | 市場出荷前(released for distribution前)の措置に限定 |
| Complaint | ISO 13485の定義を上書きするFDA独自定義 |
| Correction | ISO 13485の定義を上書きするFDA独自定義 |
また、§820.1(a)のScope条項において、ISO 13485で使用される「safety and performance」はFDA規制上「safety and effectiveness」を意味し、法定基準やQMSR要件を変更するものではないことが明記されています。
【第3階層】§820.3(a)のFDA追加定義(5用語)
- 820.3(a)は、ISO 13485:2016にもISO 9000:2015 Clause 3にも定義されていない、しかしPart 820の実施に不可欠な以下の5つの用語をFDAが独自に定義しています。
| 用語 | 定義の概要 |
| Component(構成部品) | 完成品機器の一部として含まれることを意図した原材料、物質、部品、ソフトウェア、ファームウェア、表示、又はアセンブリ |
| FD&C Act | Federal Food, Drug, and Cosmetic Act, 21 U.S.C. 321 et seq.(連邦食品医薬品化粧品法) |
| Finished device(完成品機器) | 包装、表示、滅菌の有無を問わず、使用に適した又は機能可能な機器又はアクセサリ |
| Human cell, tissue, or cellular or tissue-based product (HCT/P) regulated as a device | §1271.3(d)に定義されるHCT/Pであって、§1271.10(a)の基準を満たさず、機器としても規制されるもの |
| Remanufacturer(再製造業者) | 完成品機器に対して、性能・安全仕様又は意図する使用を著しく変更する加工等を行う者 |
【ベースライン】第4階層:ISO規格の定義
上記3つの階層に該当しない全ての用語については、ISO 13485:2016の定義およびISO 9000:2015 Clause 3(Terms and Definitions)の定義がそのまま適用されます。
つまり、用語定義のベースラインが「Part 820の条文」から「ISO規格」へ全面的に移行しました。
2. 旧QSR §820.3から消滅した主要用語
SOPにおいて特に影響が大きい、旧QSRの§820.3から完全に削除された用語は以下のとおりです。
これらの用語はISO 13485の用語体系に移行し、§820.3には残されていません。
文書・記録関連の用語
| 旧QSR §820.3の用語 | QMSR/ISO 13485での対応 |
| Device Master Record (DMR) §820.3(j) | ISO 13485のMedical Device File (MDF)の概念に統合 |
| Device History Record (DHR) §820.3(i) | 同上 |
| Design History File (DHF) §820.3(e) | 同上 |
| Quality System Record (QSR) | ISO 13485のQMS文書体系に吸収 |
重要な注意点: FDAはFinal Ruleのプリアンブルにおいて、DMR・DHR・DHFの用語が消滅しても文書化義務そのものは軽減されていないことを明示しています。
ISO 13485のMedical Device Fileの要求事項により、従来と同等の記録が求められます。
用語の変更に伴い実質的な記録要件を落とさないよう注意が必要です。
その他の主要な消滅用語
| 旧QSR §820.3の用語 | QMSR/ISO 13485での対応 |
| Management with executive responsibility §820.3(n) | ISO 13485の「top management」 |
| Establish(define, document, and implement)§820.3(k) | ISO 13485には直接対応する定義なし(個別の要求事項として規定) |
| Design input §820.3(f) | ISO 13485 Clause 7.3の設計・開発要求事項に包含 |
| Design output §820.3(g) | 同上 |
| Design review §820.3(h) | 同上 |
| Control number §820.3(d) | ISO 13485の識別・トレーサビリティ要求事項に包含 |
| Lot or batch §820.3(m) | ISO 13485/ISO 9000の定義を適用 |
| Manufacturing material §820.3(p) | §820.3から削除、ISO 13485の用語体系に委ねられた |
| Product §820.3(r) | ISO 9000:2015の定義を適用 |
| Quality §820.3(s) | ISO 9000:2015の定義を適用 |
| Quality audit §820.3(t) | ISO 9000:2015の「audit」の定義を適用 |
| Quality policy §820.3(u) | ISO 9000:2015の定義を適用 |
| Quality system §820.3(v) | ISO 9000:2015の「quality management system」の定義を適用 |
| Specification §820.3(y) | ISO 9000:2015の定義を適用 |
| Validation §820.3(z) | ISO 9000:2015およびISO 13485の定義を適用 |
| Process validation §820.3(z)(1) | ISO 13485 Clause 7.5.6のプロセスバリデーション要求事項に包含 |
| Design validation §820.3(z)(2) | ISO 13485の定義を適用 |
| Verification §820.3(aa) | ISO 9000:2015およびISO 13485の定義を適用 |
| Nonconformity §820.3(q) | ISO 9000:2015の定義を適用 |
| Unique device identifier (UDI) §820.3(cc) | 21 CFR Part 830の要求事項に委ねられた |
| Universal product code (UPC) §820.3(dd) | 同上 |
3. SOPにおける具体的な見直しポイント
実務上、以下の対応が必要になります。
3.1 用語定義一覧表(Glossary)の全面改訂
多くの企業がQMS文書体系の中に用語定義一覧表を持っていますが、これを新QMSRの4階層の優先順位に沿って再整理する必要があります。
用語定義の優先順位(上位が優先):
- FD&C Act §201の法定定義(device, labeling等)
- QMSR §820.3(b)の上書き定義(Manufacturer, Rework, Complaint, Correction, Implantable medical device等)
- QMSR §820.3(a)のFDA追加定義(Component, FD&C Act, Finished device, HCT/P regulated as a device, Remanufacturer)
- ISO 13485:2016の定義 + ISO 9000:2015 Clause 3の定義(ベースライン)
3.2 参照先の変更
SOPに「21 CFR 820.3(x) reworkの定義による」等と記載している場合、参照先を以下のいずれか正しい出典に変更する必要があります。
- 新820.3(a)に定義が残っている用語 → 「21 CFR 820.3(a)」
- 新820.3(b)で上書き定義がある用語 → 「21 CFR 820.3(b)」
- 820.3から削除されISO規格に委ねられた用語 → 「ISO 13485:2016 Clause 3」又は「ISO 9000:2015 Clause 3」
- FD&C Actの法定用語 → 「FD&C Act §201」
3.3 用語そのものの差替え
DMR、DHR、DHFといった用語をSOP内で使用している場合、ISO 13485の文書体系に合わせた用語(Medical Device File等)への変更、または自社QMSで定義した対応用語への差替えが必要です。
3.4 優先順位の明確化
同一用語についてISO 13485、ISO 9000、FD&C Act、QMSR §820.3のいずれの定義が優先するかをSOP上で明確にしておくことが望ましいです。
4. その他の関連する重要な変更点
用語定義の見直しと併せて、以下の変更点もSOP改訂時に考慮すべきです。
Management review・Quality audit・Supplier audit報告書の査察対象化
旧QSR §820.180(c)に規定されていた例外規定(Management review、Quality audit、Supplier audit報告書をFDA査察から除外)はQMSRでは撤廃されました。
これらの記録はFDA査察において提示を求められる対象となります。
FDAは国際的なハーモナイゼーション(他の規制当局やMDSAPでは従来からこの例外がなかった)を理由としてこの変更を行っています。
リスクマネジメントの明示化
旧QSRでは「risk」という語は§820.30(g) Design Validationにおいて1回のみ登場していましたが、ISO 13485:2016では25回以上使用されています。
QMSRの施行により、QMS全体を通じたリスクベースアプローチ(ISO 13485 Clause 4.1.2等)が法的要求事項として明示されました。
5. 推奨される対応手順
この用語定義の見直しは、QMSR移行における文書改訂作業の中でも最も基盤的な部分であり、個別のプロセスSOPの改訂に先行して実施されるべきものです。
- 用語定義の対照表を作成する(旧QSR §820.3定義 vs 新QMSR定義体系への対応表)
- 影響を受けるSOP・WI・フォームの棚卸しを実施する
- Glossary(用語定義一覧表)を先行改訂し、4階層の優先順位を明確化する
- 個別SOPの参照先・用語を改訂する
- 関連する教育訓練を実施する
参考資料
- FDA Final Rule: Medical Devices; Quality System Regulation Amendments (89 FR 7523, February 2, 2024)
- FDA Technical Amendments (90 FR 97378, December 4, 2025)
- Tonya Wilbon, CDRH "Navigating the Quality Management System Regulation" (FDA公式プレゼンテーション資料)
- eCFR: 21 CFR Part 820 (施行後版、2026年2月2日発効)
- ISO 13485:2016 Medical devices — Quality management systems — Requirements for regulatory purposes
- ISO 9000:2015 Quality management systems — Fundamentals and vocabulary